出会いと別れ
初めて出会ったのはいつのことだろうか。
あの、9.11のテロからまもない2001年12月、僕たちはニューヨークのマンハッタンで生活を始めた。
だから、2001年の年末か、遅くても2002年の前半だったのだろうと思う。
だれも知っている人のない異国の地で、親子3人の生活が始まった。わらをもつかむ気持ちでかき集めた、渡米前の情報に、スターバックスがある場所は比較的治安がいいらしい、というウワサがあった。だから、当時、街角でスタバを見つけるたびにホッとしていた。
どこのスターバックスだったのだろう。僕たちが生活を始めたBroadwayの100丁目あたりにも一軒あった、職場近くのMadison street、96丁目、いや、Midtownだったかもしれない。いやいや、ジョンFケネディ空港だったのかもしれない。
店内にはシナモンの香りが立ち上っていて、僕は自然にHot Tal LateとCinnamon Rallを頼んでいた。それがスターバックスのCinnamon Rallとの最初の出会いだった。以来、Hot Tall Late + Cinnamon Roll が僕のお決まりのメニューになった。
外側はやや乾き目だけど、ロールの間のシナモンのフィリングは甘く強く香る。ふわふわと軽い感じではなく、ギュッと濃縮した味をモチッとした食感と共に楽しめる。その骨太の食感を砂糖のアイシングがしっかりと支える。この甘味とシナモンの香りが口の中でいっぱいに広がると、いかにも「アメリカ」って感じがした。当然の如く、サイズもアメリカン。食べ切った後の満足感に疑念の余地はない。僕にとってリアルに嬉しい異国体験のひとつだった。
日本に帰国したとき、一番嬉しかったことの一つは、スタバのシナモンロールがアメリカと同じサイズで売られていたことだった。
ニューヨークで一番食べたのはベーグルだった。でも日本で売っているベーグルはニューヨークのそれとは全く別物だった。日本のベーグルもおいしいとは思うけれど、ニューヨークで食べてたベーグルはもっとずっと野暮で無骨だった。口の悪いドイツ人の同僚が「岩を食べてるみたいだ」と言ったくらいだから。それが懐かしく思えたりするんだな。今となっては。
でも、スタバのシナモンロールはニューヨークで僕が食べていたのと同じだった。だから僕はスタバに行くと、ほとんど必ずホットラテ、トールサイズとシナモンロールを食べてきた。帰国したのが2005年からだから、もう15年食べてきた。僕にとってあの頃の気持ちを思い返す大切な時間だった。
それが、ついに、来るべき時がきてしまった。Cinnamonn Rallとの別れ。
先日スタバに行ったら、シナモンロールがリニューアルされていた。日本サイズに。
思わず二度見している僕を見て、店員さんは「お好きですか?おいしいですよねー。」とにこやかに対応してくれたが、僕の心のうちは乱れまくっていた。正直なところ、Cinnamon Rallそのものに自分がこれほど感情移入していたとは思わなかった。
注文し食べてみると、予想通り、おいしくなっている。日本風に。香りも甘味も上品に、そしてもちもちした食感もしっかりと味わえる。シナモンロールの良さがきっちりと主張されている。でも、もう、僕にとってのCinnamon Rallではなくなっていた。
僕は、今後もノスタルジックな感情が刺激されることを期待して、スタバのシナモンロールを食べるだろう。でも、そこで期待するものはこれまでとは少し違ったものになる。これからはCinnamon Rallそのものへのノスタルジーを感じることになるのだろう。
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誰との出会いかと思ったら、、、笑👍
投稿: なお | 2020年4月11日 (土) 23時40分