_

関連

無料ブログはココログ

« 僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー | トップページ | 一人ラーメン 胃もたれの夜 »

栞 siori

 僕はスマホでメールチェックなどすることもあるけれど、画面の小さいスマホにはあまり馴染めない。鞄から取り出すのは面倒だが、なるべく本を読むようにしている。一方で、稀ではあるけれど、その世界に引きずり込まれるような本がある。恥ずかしながら、過去数回、降りるべき駅を乗り過ごしてしまった。ふと気づいて焦ってしまう自分の姿は、遅刻という現実的な問題以上になんとなく気恥ずかしい。たとえその場の乗客が自分一人だったとしても。ある時などは、次の電車が数十分先のこともあった。それに気づいた時は、さすがに恥ずかしさをとおりこし、自責の念にかられたのを覚えている。
 ある日、出張先に向かう電車の中。ローカル線の乗客は比較的まばらで空席が目立っていた。僕は、その日はめずらしく読書に没入していた。今から考えると、駅を乗り過ごしてしまう可能性のある、ヤバいパターンだったように思う。
 すると、トントン、と左肩をたたかれたような気がした。ふと顔を上げると、となりには仲の良さそうな老夫婦が座っておら、こちらを向いている。二人でお揃いの、明るい色をした帽子、ウインドブレーカーを着ておられ、これからウォーキングに行くようないでたちだ。
「読書お好きなんですね。」
「ええ、まぁ、、、」
「これ、よかったら使ってみてください。なかなかいいんですよ。」
と、渡していただいたのは小さな千代紙折ってつくったものだった。一辺2cmほどの正方形で、対角線に口が開くような袋状形態となっている。
「なんだろう、これ?」
と思って眺めていると
「これね、しおりなんです。本のページの肩のところにかけて使うんです。」
「なるほど、面白いですね。おつくりになったのですか?」
「えぇ、歳をとって時間があるもんでね。外国のかたにも評判がいいんですよ。もし、よければもっと使ってください。」
と、結局小さな小袋に入った栞を4つももらってしまった。中には「栞」「siori」と小さく書かれたこれまた小さな短冊が入っていた。本当に外国のかたにプレゼントすることを想定して持ち歩いているのかもしれない。「bookmark」でないところがイイ。なんとなく。
 数駅したところでお二人は電車をおりて行かれた。印象的な優しい笑顔で会釈するおふたりの立ち居振る舞いがとても上品だった。おかげで僕も、なんとも言えないホッコリとした気持ちとなり、穏やかな一日を過ごせるような気がした。
 以来、通勤時の読書にはこの栞を使わせてもらっている。単なる栞としてのみならず、日々の生活で心の余裕を持たせてくれる小道具として、とても大切なものとなっている。

Img_8563

Img_8564

 

« 僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー | トップページ | 一人ラーメン 胃もたれの夜 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー | トップページ | 一人ラーメン 胃もたれの夜 »