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背中

 これまでの自分の経歴の中で、尊敬する何人もの先輩に教えを頂いてきました。僕はあるころから、その先輩たちを心の中で師匠と呼ぶようになりました。

 いま、週一回、そんな師匠の1人と並んで外来診療をやっています。

 師匠と知り合ったのは今から20年以上前。駆け出しで右も左もわからぬくせに生意気だった僕に、時に頭を抱え、時に苦笑いをしながら色々と教えてくださいました。

 でも、師匠からは背中から学んだことのほうが多いかなぁ。

 出会ったころ、ある研究会で師匠の発表を聞きました。ある疾患の治療法について、いくつかの施設が経験を持ち寄って議論する、というものでした。師匠が発表した患者さんの数は、他の施設と比較してかなり少ないものでした。それだけを見れば見劣りするようにも見えました。でもその後の議論で気づきました。他の施設のデータは「グループ」のデータでした。数は多くてもその患者さんたち全てを把握している人はいませんでした。師匠はただ一人、発表した全ての患者さんのカルテに自分で目を通し、データをまとめていました。

 師匠は定年を迎え、退職された後も自分の経験を論文にまとめて投稿されています。色々な意味で生涯現役を貫いているように見えます。

 今、並んで診療していると、壁の向こうから師匠の声が漏れ聞こえてきます。体調のすぐれない日も、師匠の声は、患者さんを前にすると、ピンっとハリがでます。その声で患者さんを励まします。

 診療後、

「先生、ご自身の体調が優れないのに、患者さんの前に立つとビシッとされて、すごいですね。」

というと、軽く笑いながら事も無げに

「そりゃぁそうだよ」

と笑っておられました。

今でも背中で道を示していただいています。

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