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留学帰りの人等で、「海外では、、、」「アメリカでは、、、」と語る人のことを「出羽の守(『では』のかみ)」と呼ぶことがあるそうです。多くの場合、そんな説教じみた話なんか、聴きたくもないし、うざったいだろうなぁ、と思います。僕が留学していたのはもう10年以上も前のことですが、僕も「出羽の守」にならないよう気をつけないと、、、と思っています。今でも当時の記憶が時々よみがえってくるからです。

たった3年8ヶ月でしたが、異文化に触れた海外生活は僕に多くの影響を与えました。

留学先の研究室のボスは米国肝臓学会の大物の1人です。でも、偉ぶるところはありません。とても親しみやすい個性の持ち主です。「今度のスパイダーマンは素晴しい映画だ。みんな絶対みるべきだと思う。」なんてことを、研究室のメンバーと真顔で話すこともありました。

そんなボスの言葉からは、学問は楽しむためのものであるというニュアンスが感じられました。
学会場でボスとすれ違ったりすると、にこっと笑って

「Are you enjoying?」

と声をかけてくれます。勉強に enjoy という言葉をあてる感覚を米国に行って初めて感じました。

結果が出ず、焦りつつも、1つの研究計画に執着していた時、

「研究は旅行みたいなものだ。見知らぬ土地に行くと思わぬ発見がある。寄り道もある。けれど、つまらない道を歩くこともある。プランを変えることを恐れてはいけない、、、。」

なんて話をされたこともありましたっけ。

毎週金曜日、研究室では成果発表のミーティングがありました。僕がそれまで経験したほとんどの研究室では、順番に全員が発表していました。その研究室では順番は特に決まっていませんでした。成果が出た人が発表する、と言うスタイルでした。調子良く、成果が出まくっている人は毎月のように発表します。僕なんぞは仕事が遅く時々、ポツポツと、、、という感じでしたが、、、。

ボスは、

「研究を好きな人達が集まって仕事をするのだから、上から義務を強要しないほうがいいのだ。」

なんてことを言っていました。僕が理解した彼の基本的なスタンスは「好きこそ物の上手なれ」という考え方のようでした。

彼は、

「その方が自由な研究成果が得られるし、みんな自分より優秀なのだから、、、」

とも言っていました。御本人、首席で大学卒業しているし、お兄さんはノーベル賞の候補になるほどの科学者で血統書も折り紙付きなのですが、そんなセリフが嫌みに聞こえないところが彼の人徳だと思います。

そうは言っても、結果が出ずに研究室を去って行った人達もいましたから、世の中、楽しいだけではやっていけません。そうそう甘くはありません。でも、まぁ、基本的なスタンスが上記の通りですから、研究室の雰囲気はとても良いものでした。

そんなボスが、米国肝臓学会を前にして、研究室のミーティングで語った言葉を先日ふと思い出しました。その言葉が語られた文脈はこんな感じです。

「普段は自分の仕事に忙殺されてしまい、なかなか仕事と関係のない領域の話をじっくり勉強する機会はなかなかない。学会では、全ての領域が発表されている。各自興味がある演題を存分にきいてくるといい。」

その話の後半で、

「ただ、自分たちの研究室のメンバーが発表するときはできるだけ聞きに行ってくれ。これはとても大切なことなんだ。」

ということをみんなに話しました。特に、その中で「Show the flag.」と言う言葉を使ったのが大変印象に残っています。

僕が渡米したのは2001年9月11日、同時多発テロの約3ヶ月後でした。この事件の後、米国が日本に対して「Show the flag.」と言う言葉を用いて米国に味方することを要求したとかしないとか、、、そんな話がマスコミをにぎわせたこともありました。記憶に残っているのは、そんなことがあったからかも知れません。

先日、僕たちのグループを中心として、近隣の先生がたをお招きして、小さな講演会が開催されました。特別講演には東海大学の加川准教授を講師としてお願いしました。特別講演の座長、前座の講演演者、座長、それぞれを、ともに僕たちのグループのメンバーが務めます。

僕の担当は特別講演の座長でした。

前座の講演が終わりました。特別講演が始まります。座長の席に座りました。会場を見渡します。顔見知りの先生、そうでない先生、関連病院の先生、、、。気がつくと僕たちのグループから参加しているのは、今日の発表に関連した3人だけでした。年上の3人だけ。

「あれま、若い人、誰も来てないね。ちょいと寂しいね。」

そう思いながら、演者の先生を聴衆に紹介し、特別講演が始まりました。

時々、会場が気になります。

「今朝、できるだけ参加してほしいって言ったんだけどなぁ。若い人達にとって僕たちの考えることなんて優先順位低いのかなぁ、、、。いや、業務が忙しすぎるのかなぁ、、、。」

なんて思いが頭をよぎります。

講演の導入部が過ぎ、演者の話に少しずつ熱が入り始めた頃、会場の後の扉が開きました。僕たちのグループの若者達が列をなして入ってきたではありませんか。

僕の頭の中には「ワルキューレの騎行」が鳴り響きます。

(「Show the flag.」ってこれかぁ。)

敵に囲まれて絶体絶命のピンチ!と言う場面だったわけではありませんが、本当に味方の「のぼり旗」が見えたような気がしました。仲間が来てくれたっていうことはこんなに頼もしいことなのか、と改めて感じました。

最近は日々の業務が多忙で、学会参加も米国にいたときのようにゆったりとできないことが多く、ちょっと残念です。今年も神戸日帰り、福岡日帰りの学会出張があります。一昨年には沖縄を日帰りしたこともありましたっけ。

そんなわけで「のぼり旗を見せる」ことができないことも多々あるのですが、仲間が発表する時には、できるだけ「Show the flag.」を実践しようと思っています。

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