贈る言葉
僕たちの大学の、腎臓・高血圧内科教授が本年8月をもって退任されます。昨年一年間大変お世話になりましたので、それを僕なりにまとめてみました。
平成17年に僕が今の職場に赴任して以来、平成25年4月まで、僕と教授との接点は極めてわずかでした。主としてそれは所属診療科が違うことに起因します。僕は消化器・肝臓内科に所属しており、教授は腎臓高血圧内科の主任教授でいらっしゃいます。僕の中での勝手なイメージによれば、「教授=BIG MAN」「僕=その他大勢の1人」という構図です。一緒に仕事をする場面は多くありません。
まれに仕事の関係で相談させていただいたことはありますし、宴会などで同席させいていただいたこともあります。それらを通した教授の印象は「やさしいBIG MAN」でした。でも「教授」です。「やさしい」だけのはずがない、、、なんとなくそう思っていました。
平成25年3月に寝耳に水のことがおこりました。外来診療中に突然、病院長から電話がかかってきました。電話の主が「エラい人」からであることがわかった時点で、胸騒ぎがします。
「4月からメディカルサポートセンター(通称 : MSC)の副センター長をやってほしい。」
副センター長の関連病院への異動に伴う依頼でした。多かれ少なかれ人の異動は周囲に影響を及ぼします。この依頼もそのような流れのなかで出てきたものでした。この依頼の返事に「No」はあり得ませんでした。
MSCというのは、地域の医療機関から紹介のあった患者さんの受付とそれに付随する院内各部署との連絡調整の他、それら医療機関との情報交換会などを積極的にとりおこなっている部署です。このセンター長が教授でした。所属する職種は医師に加え、看護師、栄養士、ソーシャルワーカー、事務など様々で総勢100人をこえようという大所帯です。この人々が教授の陣頭指揮のもと、MSCは大きな盛り上がりを見せていました。今やMSCの存在は我が大学病院の特徴の一つと言っても過言ではありません。
それまで自分の診療だけに目を向けていればよかった僕には壮大すぎてその全体像をつかむことすらおぼつきません。右も左も分からないなか、僕は不安で一杯です。何をしたらいいんだろうか、、、。仕事ができなかったら教授から叱られてしまうんじゃないだろうか、、、。
教授の眼鏡の奥からキラリと光る知性にあふれた鋭い視線。にらまれただけで射すくめられてしまうでしょう。会議進行は冷静沈着に違いありません。理論に基づく鋭い指摘が繰り出され、部下の仕事を効率的に割り振っていくんだろうなぁ、、、。たてつくようなことがあれば「倍返し」、、、かもしれない、、、いやぁ、やばいことになった、、、。なんて、ビビりながらMSCのミーティングに出席しました。
沈着冷静に議事が進んでいきます。コメント、指摘も的確。これは予想どおりです。でも違うことがありました。暖かいのです。教授の言葉が、口調が、視線が。思わず発言したくなるような議事進行。皆にも意見を求めます。その結果、教授ご自身の意見が孤立してしまうことすらありました。それでも柔和な笑みを浮かべてそれを良しとしておられます。懐の深さを感じます。そして無駄な時間を費やすことなく、皆の意見を集約して淡々と議事を進行していきます。
教授はやっぱり「BIG MAN」でした。「冷静」で「論理的」で「やさしい」「BIG MAN」でした。MSCのメンバーがしたがうのもむべなるかな、と納得できました。優秀な人の仕事運びはかくあるべきか、そう思いました。そしてそれから約一年間、僕はMSC副センター長として、教授からいろいろなことを学ばせていただきました。
短い時間でしたが、身近な場でご一緒できたことを、心から感謝申し上げます。最後に、先生のより一層のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
注:この文章は教授の記念誌に寄せる文章を、ブログ用に手直ししたものです。
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