ピュア
その日、青年医師はラジオ波焼灼術の介助をしていました。
ラジオ波焼灼術というのは「がん」の治療です。体に針を刺し、がんを高熱で焼いて壊死させます。体の奥深くにまで針を入れますから、針先の位置には十分注意しなくてはなりません。刀ではありませんが、文字通りの真剣勝負です。
そんなさなか、彼の院内PHSがなりました。外線電話のようです。
「はい。」
「え?!」
「はぁ、、、だけど今、それどころじゃないんで。それはムリですね。」
「また後で連絡して下さい。」
「それじゃぁ、失礼します。宜しくお願いします。」
といったやり取りの末、彼は電話をきりました。少し驚いた様子だったので、周りは気になります。
「どうしたの?」
一緒に仕事をしていた上級医からの質問に彼はこう答えました。
「家に空き巣が入ったらしくて、警察からの電話だったんですけど、今それどころじゃないんで後にしてくれって断りました。大家さんがいるみたいなんで大丈夫です。」
みんなずっこけました。
「いや、あなた、それは「それどころ」ですよ。そりゃぁ。早く帰りなさいよ。 」
みんなにさんざんうながされ、ちょっと不満そうな表情を浮かべつつ、残りの仕事を同僚に託して、彼は帰宅の途についたのでした。翌日以降も、彼がそれまでと同じように働いていたのは言うまでもありません。
この話、ちょっと脚色していますが、実話です。
先日、学生さん、研修医の方々を勧誘する会がありました。彼らと話しながら、若者のピュアな一面を垣間みたような気がして、上記のエピソードを久々に思い出しました。
« 「サルファ剤、忘れられた奇跡」を読みました。 | トップページ | たがやす »
「医学 医療」カテゴリの記事
- 海の見える病院(2024.02.03)
- 4月20日感染制御の日(2022.04.21)
- 医療連携について(2022.02.12)
- 予期せぬ瞬間 医療の不完全さは乗り越えられるか(2019.11.07)
- 背中(2019.05.25)
この記事へのコメントは終了しました。

コメント