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今日は「やさしい肝臓病の話」という健康講座でした。

毎年5月第4週は「肝臓週間」とされていて、厚生労働省、肝臓学会などが主導して、全国で肝臓病教室が開かれます。今年は5月20日から26日でした。

我が聖マリアンナ医科大学病院も、肝疾患医療センター業務の一つとして、毎年、この季節に肝臓病教室を開催しています。今年で5年目になりました。昨年からはマリアビタミンという、健康講座と同時開催という形で開催させていただいています。看護部を始め関係者の皆様にも本当に感謝しています。

今年は、「脂肪肝」をとりあげました。

健康診断でひっかかったときの反応には病気により、人によりさまざまです。

多分、多くはこんな感じではなかろうかと想像します。

1:別に元気だし、全く気にしない
2:さもありなん。
3:恥ずかしい。
4:やば。しっかり治療しないと、、、
5:これから先どうなるんだろう。不安だ。
6:よく分からない
7:その他

胃がんかも知れないといわれたら、やっぱり4とか5とかの反応になるのではないでしょうか。

糖尿病と言われても、やっぱり多くの方は4とか5になるんじゃないかと想像します。

では脂肪肝と言われたら?

僕の経験では、多くの女性は3を想像させるリアクションです。なかには2、1の人もいますが一方で、4、5、6の方も時々おられます。

なぜこれほど様々な反応が出てくるのでしょうか。

僕なりの解釈では「脂肪肝」という言葉で定義される病状にもざっくり言って二つの病状が一つの言葉で表現されていることに加え、情報を受け取る(患者さん)側にも二つの視点があるからだと思います。

まず、情報を受け取る側の二つの視点とは「美容」と「健康」です。「美容」という視点から見ると、「脂肪肝」という言葉には「デブ」「メタボ」の別称のように感じられるようです。それも否定はしませんが、「健康診断」の結果としての「脂肪肝」ですので、ここは「健康」という視点に限定して話を進めます。

(お酒でも「脂肪肝」になりますが、ここでは話が面倒になりますので割愛します。)

「脂肪肝」を「病気」としたときに、この脂肪肝にも二つあります。「単純性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」。前者は病的意義は少なく、後者は放っておくと慢性肝臓病が進行してしまうとされるものです。

「脂肪肝」についてのイメージに混乱が生じている大きな原因は、元々良く知られていた「脂肪肝」という言葉に、近年になって病気の概念が導入されてきたことだと思うのです。

僕が医者になった頃、平成2年に厚生省・日本医師会の発行された「肝疾患診療の手引き」には

「脂肪肝は一般に原因の除去により消失する可逆性の疾患であり、予後も良好である。」

と一文で終わっていました。

平成18年の肝臓学会が発行する診療ガイドではこうなっています。

非アルコール性脂肪性肝疾患 (Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)
1:単純性脂肪肝(Simple Steatosis)
  病的意義はあまりないと考えられている
  NASHに進行する症例も報告されている
2:非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic Steato-Hepatitis: NASH)
  NASHの予後はまだ不明な点が多いが、これまでの報告をまとめると肝硬変への進行は5-10年の経過観察で5-20%である。

随分長くなりました。さらに、これが平成22年にはこう変わります。

非アルコール性脂肪性肝疾患 (Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)
1:単純性脂肪肝(Simple Steatosis)
  単純性脂肪肝は病的意義はあまりないと考えられていた。
  しかし、単純性脂肪肝からNASHへの進行例が散見され、両者を別の疾患ととらえる従来の考え方が見直されてきている。
2:非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic Steato-Hepatitis: NASH)
  予後は線維化の進行度で異なる
  線維化軽度例は比較的予後は良好であるが、進行例では肝硬変や肝細胞癌に進行する

単純性脂肪肝とNASHとの境界が不明瞭になっています。NASHについても、記載は微妙です。ついに、がんの記載まで出てきました。

さらにさらに、平成24年度版ではこうなっています。

非アルコール性脂肪性肝疾患 (Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)
1:単純性脂肪肝(Simple Steatosis)
  単純性脂肪肝からNASHへの進行例が散見される
2:非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic Steato-Hepatitis: NASH)
  予後は線維化の進行度で異なる
  線維化軽度例は比較的予後は良好であるが、進行例では肝硬変や肝細胞癌に進行する

なんとまぁ、たった6年の間に単純性脂肪肝の解説から楽観的表現が消えてしまいました。考えようによっては無責任きわまりない話です。

慢性の病気の治療、フォローアップなんて10年20年30年と続けるはずのものなのに、、、、。

ただ、単なる無責任とは違うと僕は思っています。表現だけみると確かにそうなのですが、実際にはそれぞれの時代にそのように発言する歴史的根拠があったのです。

問題は、僕が生まれる前からあって、誰でもが知っている「脂肪肝」というものへの理解が大きく変わってきているのに、過去のイメージを引きずりつつ同じ言葉が使われ続けているのだということだと思います。

そこで、まず、今日の講演会では、なんでこんな事になってしまったのか、第一部では、僕的な歴史観からこれを概説させていただきました。

第二部では、代謝内分泌内科の先生に、「代謝」という側面から「脂肪肝」を語っていただきました。

僕自身も大変勉強になって楽しかったです。特に、「健康」という観点から見た時、フルーツに大したアドバンテージがないというのは目から鱗が落ちる話でした。

さらに第三部では、僕自身のダイエット経験を代謝内分泌内科の視点から批評していただきました。

この第三部は予め打ち合わせをせずに行いましたので、始める前はちょっとドキドキでしたが、概ねオッケイをいただけてほっとしました。

さらに、

体重を減らしていく時は、数字が減るごとに「よしっ」という小さな達成感が得られる。だから体重を減らすのは以外に簡単。でも体重はゼロにならないので、必ず体重維持を目的とする時が来る。その時には、体重減少と言う数字以外のものに達成感を求めていかなくてはならない。

という指摘とアドバイスは、「まさにその通り。」と納得できるもので、大変ためになりました。

今日は合計で93人もの方にご参加いただきました。さらに、2時間の予定を50分もオーバーしてしまったにもかかわらず、多くの方々に最後まで話を聞いていただいて本当にありがとうございました。

脂肪肝については

0:甘く見てはいけない(かもしれない)。
1:メタボの他に原因がないことを確認することが第一。
2:血液検査、画像検査の評価が大切。
3:定期的なチェックが必要。
4:未だに新しい知見が集積し続けている。

なんてことを意識して、健康管理、情報評価の一助としていただければと思います。

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