重い。美談ではない。でも記憶にとどめおくべき「記録」であると思う。
あの日。それぞれの人の想いがあります。僕にだってあります。一応。
でも「その場」にいた人たち、「その場」から生き延びた人たち、そして「その場」にいなかった人たちの想いは、僕のそれとはまったく違うと感じます。
石巻市立病院の話は「SOS! 500人を救え! ―3・11 石巻市立病院の5日間― 」で読ませていただいきました。
今回読ませていただいたのは石巻市立雄勝病院の話。
3月11日の震災で入院患者さん40名は全員亡くなられ、当時院内にいたと見られる28人の職員のうち生存者はたったの4人。
そこで何があったのか。
「海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実 」は生き延びた方々の証言から構成された、克明な記録です。
患者さんに寄り添い、「ごめんねぇ、ごめんねぇ」と言いながら津波に飲み込まれていった職員の方々。
災害に万全と思われる対策をとっておられた副院長。
ご家族はおかげで比較的不自由の少ない生活を送ることができたようです。
「津波さ来る。早く、逃げろ!」
と言われた副院長は
「患者をおいて逃げられない。さぁ、戻りましょう」
そう言って病院の正面玄関へ歩いていきました。その後も津波にのみこまれながら周囲の人を助け続けた様子が伝えられています。
屋上から津波にさらわれ、津波に飲まれ、流される屋根の上にのぼり、散り散りになっていく様は壮絶です。
生き延びた方々の経過が詳細にあかされます。皆、仲間との生死を分ける瞬間を体験しています。それを語っていただくのは大変な作業であったでしょう。その経験を追体験することになってしまいますから。
その場に居合わせることなく一命を取りとめた職員たちもいます。その方々の思いもさまざまです。そして、多くの仲間を失いながら、医療者としてなさねばならぬことが山積します。
家族の最期の様子を知りたいと願う、患者さんや職員たちの遺族の思い。
皆々様の心の傷が癒されることはないのでしょうが、少しでも安らかな気持ちになれる日が来ることを願います。
本書は可能な限りの私見を排し、冷静に、誠実に書かれていると思いました。
ただ、マスコミュニケーションの世界に身を置かぬものとしては、ジャーナリズムに多少偏見があるのかもしれません。一般に商業主義がはびこりすぎているような印象があります。
だから、偏った意見かもしれませんが、こういう話は安易に報道したりドラマ化したり映画化したりしてはいけないと感じます。
同時に、それと矛盾するようですが、雄勝病院で起きたことを、事実として多くの人の記憶にとどめることは、とても意味があると思います。
僕たちは、この国に住み続ける限り、防災をつねに意識しなくてはならないから。
僕が言いたいのは、これを教訓として安全なマニュアルを作ろうなんてことではありません。
それも大切かもしれません。
でもそういうことよりも、雄勝病院の方々が命を賭して守ろうとしたものを伝え、考え続けることの方が、より本質的で、より大切なことなのではなかろうか。
そう感じます
自分に同じことができるだろうか。
居ずまいを正して問うてみても、答えはそう簡単に出せそうにありません。
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