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予防的乳腺切除手術について思うこと

米国の映画女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がん発症の予防を目的として乳腺切除の手術をうけました。それを受けて、遺伝子検査や乳腺切除手術への関心が高まり、日本でも同様の医療が行われようとしているというニュースを目にしました。

特に乳腺切除手術について、今のところ自分はその当事者ではありません。専門家でもありません。なので、当事者の方々の気持ちは限られた経験の中から想像するのみです。ここでは、当事者でない立場から、一般論として、ジョリーさんがうけた乳腺切除手術について、今の自分の考えをまとめておきたいと思います。

あまり論じられていないように思いますが、これは予防医療です。ですから、ここにおこる議論には予防医学一般に通じる内容も含んでいるように思います。

一般に通じる内容とは、「病気でない人間に医療行為を行う」ということです。このことと、この問題に特有の内容をわけて考える必要があります。

まずは「病気でない人間に医療行為を行う」について。

予防であっても、治療であっても、医療を行うのは、病気による望ましくない結果を避けるためです。しかし、医療によって望ましくない結果に終わる可能性も常にあるわけです。

だから、予防医療を行うか、行わないか、それを決めた時点で一つの判断が下されていることを自覚するべきだと思います。

乳腺切除の手術をうけて、麻酔薬の副作用で大変な事になるかもしれません。傷跡が目立つものになって、ずっと残ってしまうかもしれません。手術をうけても乳がんになってしまうかもしれません。その確率は決してゼロにはならないのです。

一方、乳腺切除の手術を受けない場合、遺伝子検査で予測された発癌率(それが正しいとして)は変わりません。発癌しないかもしれませんが。

いずれにせよ、その「結果」を受容して次に進めることが大切だと思います。では、一般論として予防措置を講じた場合とそうでなかった場合、どちらが受容しやすいのでしょうか。

日本では積極的に予防的対処を行って、望ましくない結果に終わった場合に後悔を強く感じるヒトが多いように、僕は感じます。

予防接種の副作用が良い例です。健康な人が予防接種を受け、アレルギー反応などにより強い副作用が出てしまうことがあります。そうした時にネガティブな議論が巻き起こることはよくあります。

副作用が起きる確率が1000分の1であれば、予防接種を受けた10人に副作用が出る確率は100分の1です。

でも予防接種を1000人うけることとなれば、毎回1人くらいの割合で副作用が出るかもしれません。時にそういうアンラッキーな人がマスコミに大きく取り上げられることがあります。

1000分の1とは言っても、本人にとってみれば1人に1人。自分がその一人になるかもしれない。予防接種をやらなければ健康だったのに。そう考えるとおっかないものです。恐怖感をあおるのは容易です。高い視聴率もとれそうな気がします。何となく正しい注意喚起をしているような感じもするのかもしれません。

一方で、予防接種をせずにその病気にかかってしまった場合、「予防接種しなかったから、仕方ないね。」と諦められそうな気がします 。だからでしょう、そういう事例が大きく取り上げられることは普通ありません。

繰り返しになるけれど、予防医療を行うか、行わないか、それを決めた時点で一つの判断が下されていること、そのどちらの判断も等価だと思います。 片方の事例だけ大きく取り上げるべきではないと思います。

予防接種なんてやらなくたって元気。やらなくたって病気にかからないかもしれない。予防接種のせいで病気なってしまったら後悔してもしきれない。そのくらいなら、やりたくない。そういう考え方もあってイイと思います。

ただ、僕はそれには同意しない立場です。

効果が明らかだという根拠が明確ならば、僕は予防医療を推進することに賛成です。原則的には。

効果が明らかな場合、予防医療は、副作用が出るかもしれないからやらないのではなく、副作用対策をしっかりして予防を進めるという考え方の方がより建設的だと、僕は思います。

ただ、乳腺切除に関しては、この問題特有の内容を含んでいると思うので、話は単純ではありません。

僕の頭で考えるこの問題特有の内容とは、「がんという病気に対しての『予防』である」ということ、「乳腺という、ある意味では女性を象徴する臓器にメスを入れる」ということ、「メスを入れる根拠がDNA配列である」ということになると思います。

まず、「がんという病気に対しての『予防』である」ということについて。

先ほども予防接種を例に挙げましたが、予防医療はジェンナーの種痘に始まって、感染症の領域で絶大な成果を上げてきました。

だから感染症における予防接種と今回の乳癌予防のための乳腺切除を比較してみたいと思います。その時に最も異なるのは病気の質の違いです。感染症は伝染します。乳癌は伝染しません。ただ、遺伝するかもしれません。

感染症では、予防接種を行うことにより、病気にかかる確率が減ります。重症化する確率が減ります。周りの人に写す確率が減ります。結果として、集団として、その病気に強くなります。だからより多くの人が予防接種をうければ、その効果はさらに高まると期待されます。これを集団免疫と言います。

予防接種を受ける人数が10人しかいない場合と較べ、1000人受けた場合、集団としてのメリットが増える分、個人が享受するメリットも大きくなるのです。最終的には天然痘のように、地球上から根絶できる感染症もでてきます。

一方で、乳癌は伝染しません。集団免疫の考え方は適応されません。予防医療(乳腺切除)を10人が受けようが、1000人が受けようが、そのメリットの大きさは変わりません。根絶されることも絶対にありません。

そして乳腺切除を行ったにもかかわらず、不幸にして乳癌が発症した場合も、軽症で済むなんてこともありません。むしろ安心しきって定期的検査を怠れば、進行するまで発見されない可能性だって想定できます。

ここは十分意識しておく必要があると思います。

その上で「乳腺という、ある意味では女性を象徴する臓器にメスを入れる」ということについて考える必要があると思います。そこにこだわりのあるヒトないヒト、人それぞれに思いがあるでしょう。手術をうけたあと、その傷あとに痛みや違和感などを感じることがあるかもしれません。その時に何を思うのか、これは様々だと思います。

そして、「メスを入れる根拠がDNA配列である」ということについて。

遺伝子のDNA配列を調べ、異常があれば、予防を目的として乳腺を切除するというのがこの医療です。その「遺伝子」は確かに乳がんの「癌抑制遺伝子」として有名なものです。何しろ、その遺伝子は「乳癌=Breast Cancer」 の頭文字を2文字ずつとってBRCAと名付けられている位です。感情的にはなるほど、と思います。

でもその遺伝子(BRCA)は乳腺を守るだけの為に存在しているわけではありません。全ての細胞にこの「癌抑制遺伝子」は存在している。その機能は様々に検討され証明されているけれど、基本的に乳腺でだけで必要とされる機能ではありません。全ての細胞で大切な機能です。そのBRCA遺伝子に異常があるとなぜ、胃がんでも大腸癌でも肝臓がんでも肺癌でも腎臓がんでも脳腫瘍でも骨肉腫でも白血病でもなく、乳がんになりやすくなるのかはよくわかっていないはずです。 ちなみにBRCAの異常で卵巣がんの確率が上がることもあります。

メカニズムがわからなくても、「確率が高い」という事実が分かれば十分だという考え方もあるでしょう。メカニズムがわかるまで待っている間に「がん」になってしまうかもしれません。そんな悠長な事は言っていられない、そういう意見を否定するつもりはありません。

ただ、その「確率」の根拠となっている「事実」は誰を元にしたデータでしょうか?

こういった遺伝子変異はアシュケナージ系ユダヤ人に多いことがわかっています。人種による発癌率の違いはどうなっているのでしょうか?

出産や授乳経験の有無、食習慣を含めた生活習慣などによってBRCAの関与した発癌率は変わるのでしょうか?

同じ遺伝し変異を持ちながら、発癌する人としない人、何が違うのでしょう?『運』がちがうの?

メカニズムが十分にわからないのに、そう言ったコトが影響する可能性を無視していいのでしょうか?

僕は、自分の正常な乳腺の切除術を受けるとするなら、こういったことが気になってしまいます。

これらを調べて納得することを条件にするでしょう。なにしろ手術という治療は後戻りできないものですから。

そうでないと、最初に書いたように「望まぬ結果」となったとき、それを受容するのに非常な苦しみを味わう事になると思います。

そんな事を考えると、現状では正常乳腺の切除を受け入れられないように感じます。僕自身は。なにか、遺伝子異常をきっかけに恐怖感ばかりあおられているような気がしてしまうから。

なので、現時点では、自分なら、遺伝子異常がみつかっても、日常の自己触診による乳腺診察、そして通常より短期の定期的なスクリーニング検査(乳腺超音波、マンモグラフィーなど)で早期発見に努めるという選択肢を選びそうな気がします。

「短期」というのがどれくらいかは、一般的な乳がんの成長速度、腫瘍倍加時間などと、どのくらいのサイズまでに診断できれば治癒が見込めるかの想定から算出できると思います。

医療経済学的には、一生、短期間で検査をし続けるより、早期に手術で切除したほうが、コストがかからないと言うことになるのかも知れませんが、自分が今納得できるとしたらそういう方針だと思います。

ここまで語っておいて、最後の最後に、大変申し訳ないけれど、改めて、本当のところは自分がその場になってみないとわからないと感じます。

やっぱりコワイから手術してなきものにしてしまいたいと思うかもしれません。

でも、だからこそ、今のうちに自分がどう感じているかをまとめておく意味もあるんじゃないかとも思っています。

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