先輩は有り難い
先日、ある先輩から僕の心のゆるみと考えの甘さを鋭く指摘されました。そういうつもりはなかったのですが、指摘されてみれば全くその通り。言葉もありません。
だんだん年をとってくると、ガツンとやってもらえる機会が少なくなってきます。
こういう機会は貴重です。ですから、反省すると同時に、とても感謝しています。
そんな事を思っていたら、医者になって4年目頃のことを思い出しました。
4年目くらいになると、イロイロなことを少しずつ任せてもらえるようになってきます。「できる」ようになったという実感がありました。
僕は、たった数百日前には、自分が不安でしかたのなかった劣等研修医だったことなどすっかり忘れていました。
一緒に仕事をする他職種の方々との関係も良好で、前途洋々たる未来が開けているように感じていました。まちがいなく、僕は天狗になっていました。
当時、僕と一緒に仕事をされていた、ある先輩ドクターがおられました。その方は僕より10年以上年上の方でした。
今から思えばとても柔和な、「内科らしい」ドクターです。
当時、僕が教えていただいた格言にこういうのがあります。(米国の格言だと聞きましたが真偽は不明です。)
「内科医は何でも知っているが、何にもできない。外科医は何でもできるが、何も知らない。病理医は何でも知っていて何でもできるが、遅すぎる。」
正しいかどうかは別にして、他のところでも似たような言葉を耳にしたことがあります。そう言った人がいて、多くの人が何となく同意して、何となく一般に正しいようなイメージもあり、受け売りしやすい言葉なのだと思います。
そして多くの場合、「何もできない内科医」「何も知らない外科医」になってはいけないのだといった話が後ろに続きます。
そうだ。医学は平等なんだ。若くたって、知っている人、できる人がエラいんだ。そう思うと、大した努力をしていたわけではないのに、どこからともなく向上心が湧いてくるような気がしました。
何も知らない、何もできない医者になってはいけないのだ。僕はこの言葉を、そういうメッセージとしてうけとめました。それが当時の僕の耳にはストレートに心地よく響きました。
これからの時代、今までと同じ医師像を目指してはいけないのだ。
僕は、内科らしい、柔和な先輩ドクターは、昔ながら古い医師像の象徴のように感じました。
「内科らしい」ということであって「何もできない」という訳ではないのですが、少なくとも病気に対して攻撃的な感じはしません。当時の僕の理想とする姿とは異なっていました。
その先輩ドクターと議論をしたときのことです。
ある患者さんの治療についての議論だったと思います。僕はその先輩に、明らかにかなり失礼な態度を取っていました。詳細は記憶していませんが、自分の意見を認めてもらえず、たいそう不機嫌だったように思います。
今から考えてみれば、僕の実力不足か、僕が間違っているかのどちらかだったのだろうと思います。でもその時はそう思いませんでした。自分の意見に納得しない先輩に自信がないのだ、という程の勢いでした。
その場がどのように治まったのか記憶にありませんが、恐らく先輩ドクターがひいてくれたのだと思います。少なくとも不満一杯でその場をはなれた記憶がないので。
自室にもどり机に腰掛けると、机を並べている整形外科の先輩が声をかけてくれました。その議論を聞いていたようでした。
「おまえなぁ、、、自分は評判がいいと思ってるのかもしれん。そうかもしれん。でも、あの先生はお前の先輩だろう?お前の態度は絶対に良くない。
あの先生はお前より何倍も長く医者として仕事をしてきたんだ。知識の量なんかとは別に、本では勉強できない経験をお前の何倍もしてきているはずだ。
なぜそれを学ぼうとしない?全ての面でお前が優れているとでも思っているのか?」
天狗になっていた自分に気づかされたことがショックでした。同時に感謝しました。そう言ってもらえる先輩がいることは、文字通り「有り難い」ことです。
そしてさらにずぅっと後、僕が退職した後のことです。
先の柔和な先輩ドクターが、僕のいないところで、僕のことを褒めてくれていたという話を人づてに聞きました。自分で築き上げたのだと思っていた他職種との良好な関係も、実は必ずしもそうではなかったのです。
僕はなんと浅はかさな、恥ずかしい人間だったのだろうと、本当に反省させられました。
かえすがえす、先輩は「有り難い」ものだと思うのです。
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