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LIver Forum in Kyoto 特別講演の備忘録

Liver Forum in Kyotoに参加してきました。肝臓関係の臨床を視野に入れた基礎研究を中心とした学術集会です。

とても勉強になりました。特に最後の特別講演では大変刺激されました。

特別講演は国立がん研究センターの柴田龍弘先生による「病態の分子理解に向けた肝がんゲノム解読」でした。

せっかく勉強してきたので忘れないうちにまとめておこうと思います。ただし、以下は備忘録的なもので、僕の理解に基づくものですので、正確を期す場合は他のソースもあたって確認いただきますようお願いいたします。

人間の遺伝情報は細胞の中の、核の中の染色体を構成するDNAの配列に刻み込まれています。がんはその遺伝暗号が何らかの理由で正常に働かなくなることによって起こる病気であると考えられています。

この意味で、がんは細胞の病気であり、遺伝子の病気であると言えます。で、あれば、がん細胞の遺伝暗号を全て解読し、どこに異常があるかを調べれば、それに合わせて適切な治療をできるようになるかもしれません。

かつて、ヒトの遺伝暗号を全て解読することは月へいくことにも例えられた大プロジェクトでしたが、今は一人一人の遺伝暗号を全て解読できるようになりました。実際、かのスティーブ・ジョブスは自身の膵臓がんの治療のためにそういうことをやったみたいです。彼の伝記によれば。

ただ、現状では、診断のために必要な情報も、その診断に基づいて適切な治療戦略をたてるために必要な情報も(前例がないですから)全く不足していることに加え、治療法がまだまだ未熟で、そう言った情報を有効活用できる状況にはないのだろうと、僕個人は思います。

でも、Break throughなんていつ訪れるかわかりません。とにかく、月旅行は未だ夢のままですが、患者さんのゲノムを解析し、治療に応用することは現実的な目標として語れる時代になりました。

現在、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)というプロジェクトが立ち上がり、様々ながんの患者さんのそれぞれのDNA配列が解読され蓄積されつつあります。米国、ヨーロッパを中心に日本をはじめとするアジアからも複数の国が参加していて、NatureとかScienceといった科学雑誌には時々その成果が発表されています。

日本は肝がんの解析プロジェクトに参加しています。特に肝がんでも、B型肝炎やC型肝炎が関わっていると想定される肝がんについての解析を進める事になっているとのことです。昨年、日本からもその成果の一部が発表されました。

やはり、肝がんをはじめとする、アジアで多いがんについての研究を進めるには、アジアかららのデータが必要だと思います。

また、アルコールに関連した肝がんはフランスで解析が進んでいるとのこと。他の国のデータも合わせて解析していくことによって、人種の違い、原因の違いによって発症した「肝がん」の共通点、相違点が明らかになってくるでしょう。

最終的には日本から500人の患者さんの肝がんのデータが提供される予定となっているとのことですが、昨年公表されたのは最初の27人のデータでした。現在、次の150症例に取り組んでいるとのことでした。

この27例の中にはB型肝炎から発がんした症例、C型肝炎から発がんした症例が含まれていて、みな中分化型肝細胞癌であったとのことです。今後は高分化、低分化のものも含まれていくとのことでしたので、より包括的な情報が得られることと思います。

現時点までの解析では肝がんの突然変異は他のがんと較べてやや多いとのことでした。「肝炎」という炎症が発がんに関係しているとすれば、炎症に関連しないがんと比較して突然変異が多いのは納得できます。ちなみに、タバコなどが関連した肺癌などはもっと多いとのことでしたので、さらに納得しました。

でも、ちょっとおや?っと思ったのは、ウイルスのによるmutationの違いは特に見られなかったと言うこと。中分化型肝細胞癌のみ、少数例での検討ですから何とも言えません。けれど、多くの肝臓屋さんがB型肝炎からの発がんとC型肝炎からの発がんに違いを求めています。どうも、その違いは存在しているとしても、少数例の時点から明らかになってくるほど「違う」ものではないようです。

原因にかかわらず、p53とβカテニンの異常は高頻度に見られるけれど、その他の遺伝子異常で様々な症例に高頻度で共通する遺伝子異常はあまり見られなかったようです。敢えて言えば、ARID1Aを筆頭とするクロマチン関連遺伝子の異常が多いとのこと。

結論として、「肝がんゲノムは少数の高頻度異常と多数の低頻度異常からなっている。しかもその他にnon coding RNA、epigenomeの異常もここにかかわっている。」ことが分かってきたと言うことです。

肝臓がんの遺伝子異常の解析は、B型肝炎ウイルスのヒトゲノムへの組み込みが明らかになって以来、長い間、調べられ続けてきました。いくつもの論文が発表されましたが、再現性のある遺伝子異常はp53、βカテニン以外に同定されていません。この結果を見て、肝がん特有の原因遺伝子の異常をさがそうとしてきたこれまでのストラテジーは間違っていたということになるのだろうと感じました。

また一方で、がんにおける突然変異はランダムにおこるものではないようです。僕は確率論的にランダムにおこってくるのかと思っていましたが、塩基ごとの確率で見ていくと、一定の傾向が見られるとのことでした。

HBVのintegrationのあるようなものや、飲酒歴のあるようなものではそれに関連した突然変異のパターンが認められるそうです。どうも肝がんでは発がんに関わる複数の因子に関連したパターンのmixtureであるようでした。この辺は(十分かどうかワカリマセンが)500例の積み重ねによって明らかになってくるのかもしれません。

また、肝臓がんは、慢性の肝臓病を背景におこってくるので一つの肝臓に複数のがん結節が出現してくることがあります。これを多中心性発がんと言います。

今回の講演では、一つの肝臓にがんが二つ出現した二症例で、それぞれの腫瘍からゲノムを抽出し、解析を行った結果が示されました。二症例とも、同じ人間の一つの肝臓の中にほぼ同時期に出現してきた肝臓がんにも関わらず、それぞれの腫瘍の突然変異に共通するものは全く見られませんでした。rearrangementのpatternにも共通性は見られなかったことも分かったそうです。

一方で、突然変異のパターンには共通するものがみられたとのこと。少なくとも突然変異のパターンに共通するもがありながら、ここの変異は別個におこっていると言うのは、発がんにおけるField carcinogenesis理論が正しいことの証明のような気がました。発表では触れられていませんでしたが。

異なるヒトにできたがんの遺伝子異常がことなるのは何となく納得しやすいです。発がんの母地となる正常の細胞にそもそも個人差があるわけですから。けれど、1人の人間の肝臓内にできた複数の腫瘍で、腫瘍ごとに違う突然変異がおこることがわかりました。胚細胞変異は一個人の全ての細胞に共通のはずです。細胞ごとに違うとすれば、発がん過程でおこってくる体細胞変異あるいはepigenetic changeの違いによるものなのかもしれないと思います。

また、突然変異のpatternはがんの種類によって傾向があることも分かってきたようです。胃がんと大腸がんのパターンは似ているらしいなんていうのは、なんとなく想定内の結果です。肝がんはどうでしょうか。なんと、スライドでは、前立腺がんや慢性リンパ性白血病に極めて似たパターンを呈していました。これはちょっと驚きました。このような観点から、悪性腫瘍の再分類がなされる日が来るかも知れません。

さらに、このゲノム解析から、がんの発生と多様性についてもいろいろなことがわかってきています。がんは遺伝子不安定性を獲得して進行するにつれ更なる突然変異を獲得し「進化」していきます。この過程でGrowthadvantageを獲得したものや、Selection pressureに適合したものが大きなポピュレーションとなっていくわけです。

講演では一個の肝がんの中から五カ所(T1〜T5)、それから別の結節から一カ所(T6)、計6個のサンプルから別々にゲノムを抽出し、解析した結果が示されました。

すると、突然変異のパターンからT1とT5は良く似ていて、T3, T4は比較的異なっていました。とってきた場所を見ると確かにT3T4は少しはなれた所にあります。しかし共通する突然変異も存在していて、先祖は同じ細胞であったことが想定された。そしてT6はT1〜T5に較べると明らかに異なるパターンを呈していて、多中心性に発がんしたものであることがここでも明らかとなりました。

その後の質疑応答で、がんによってこれほどまでに「違う」ということが明らかになってしまうとするならば、このやり方で結論を出そうとしてもムリなんじゃないか?という質問が出されていました。

同じ患者さんの肝臓の中にできた二個のがんに共通する突然変異が見つからないのに、複数の患者さんに共通する治療戦略を建てられるのか?

もっともな疑問だと思います。多分僕はできると思います。臨床的に見れば全部肝がんで、とっても良く似ているんです。今日の話は、ミクロの視点で見てみたら、思った以上に個性がありますよ、と、そう言う話だと思います。今後情報が積み重なるにつれ、共通項が明らかになっていくのだろうと思います。その「共通項」は今まで思いもよらなかったものかもしれません。

かつて、僕が研修医だった頃、多発肝がんのプレゼンテーションをした時に、昨年他界されたO名誉教授から、「この腫瘍が肝臓内で転移したものか、多中心性に発がんしたものかを正しく診断するために、何か方策がありますか?」と質問され、「そんな無理なこと聞くなよ。」と思ったことを思い出しました。

20年以上たってから、あの時の答えが目の前で示されているような気がして、自分の不明を改めて感じました。ただそこで示された「答え」とても刺激的で、大変勉強になりました。

そのわりには、我ながらまとまりのない「備忘録」になってしまいました。修行が足りません。明日から出直しましょう。

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