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6.患者さんの死から学ぶ 2

北海道在住のN婦人は、自ら選んで国立がんセンター病院に来られた。外来担当医の一覧表に、幼少時から知っている内科医の名前を見つけ診察を求めたという。肝臓がんであることは既に知っておられた。結局私が主治医となり、肝動脈塞栓術、放射線療法等を行い約3年間の経過で死亡されたが、直接の死因は肝細胞がんの破裂による腹腔内出血であった。腹腔内出血のアタックは2回あった。

 1回目のアタック後、家族の間で北海道に帰るか東京で治療を続けるかの議論が起こった時に、最後の希望として東京での治療を自ら選択された。2回目のアタックの時には「もう輸血はいいでしょう」といわれ、これまでの治療に対するお礼を述べられた。冷静なNさんらしい73歳の最後であった。

 Nさんについて特に記憶に残っているのは、2回目の肝動脈塞栓療法を勧めた時のことである。Nさんの肝細胞がんは右肝動脈と横隔膜動脈の両者から栄養されていた。1回目の肝動脈塞栓療法は右肝動脈のみから行われたため、当然のことながら横隔膜動脈から栄養されている部分に対しては効果がなかった。その事実を説明し、横隔膜動脈の塞栓療法を勧めた。痛みが前回よりも強く、シャックリなどのでる可能性を説明しながら同意を求めた。その時、70歳を越えた婦人とは思えない判断力の良さと、病気を自分の問題として処理している人格を感じたが、最後までその姿勢を維持されたのであった。

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