_

関連

無料ブログはココログ

« 8.これからのターミナル・ケア | トップページ | 温故知新 »

おわりに

 私は常々ターミナル・ケアのあり方について静かに考える時間を持ちたいと思っていましたが、日常の診療業務や臨床研究の忙しさに埋没した生活が続き、なかなか果たせませんでした。その最大の原因は単独の主治医として、臨死患者の診療に従事している事にあります。現在勤めている茨城県立中央病院に転任した時に、新しい病院の空気に早く馴染もうと病棟業務にも手を出したのでした。それには、現場から離れると、理想論に羽ばたきそうな自分のターミナル・ケア論を抑える目的もありました。

 しかし、最近では病院での管理業務が増えたため、ターミナル・ケアの実践が困難になったこと、区切りの良い60歳になったことを契機に、漸次病棟業務から手を引くことにしました。その前に過去の経験を断片的にでも記載しておこうと始めたのがこの小論文の出発点です。不消化のままの経験を、拙い文章で綴る事になってしまいました。

 振り返って見ますと私のターミナル・ケアは、試行錯誤の繰り返しでした。多忙な毎日は、日常の診療経験から一般論を演繹できない自分の無能力さにも原因があったのかもしれません。しかし、ターミナル・ケアは私を捉えてはなさない力を持っていました。ターミナル・ケアは、日常の診療業務の中に医療の理想を求めることや、自分の過去の経験を美化しながら漸進する医療の実践を許してくれたからです。肉体的・精神的に極限に近い生活の毎日でしたが、心の安らぎを覚える自己満足の瞬間があったのです。これまで私を支えて下さった、多くの患者さんとそのご家族、諸先生、看護婦さんや病院関係者、およびわが家族にも心からの謝意を捧げたいと存じます。有り難うございました。今後とも医療の本道をそれぬようご指導下さいますようお願いいたします。

 最後になりましたが、この小冊子は、医事出版社会長小田木正男氏と編集係竹下充氏のお勧めにより、医学雑誌「診療と新薬32巻8号、および9号」に掲載された論文の別冊を製本したものです。気恥ずかしさを感じますが、一つのマイル・ストンになりました。ご高配に感謝いたします。

1995年12月

茨城県立中央病院内科
岡崎伸生

« 8.これからのターミナル・ケア | トップページ | 温故知新 »