「僕の死に方」
新年早々の話題としてはちょっと重めですが、、、。
「僕の死に方 エンディングダイアリー500日 」を読みました。
僕は全ての人の死にドラマがあると思います。そのなかに、形として遺されるドラマがあります。
筆者の金子哲雄さんは、なくなる前のたった一ヶ月間で本書を書き上げ、「ドラマ」を形として遺されました。
金子さんは、自身がこの世を去ったあとの段取りを全てオーガナイズされました。お葬式で御本人から出席者の方々への手紙が読まれることなど普通経験するものではありません。
体力が病魔によって蝕まれていくなか、自分の死後に想定される様々なことを全て仕切りながら、しかもその間に、本まで書き上げてしまうというのは、正直、すごいことだと思います。
その驚きとともに、この「ドラマ」を読みながら、僕の父親が自分の最期について思い描いていたのは、こういう「ドラマ」だったかもしれない、、、。と、ちょっと思いました。
本書によれば、金子哲雄さんが病気になる前のスケジュールは、まさに分刻みです。これまたスゴいの一言につきます。
若い頃、僕の父も、自分の命を削っていると思われるほど働いていました。父親は国立がんセンターという病院で肝臓がんの診療にあたっていました。
専門は消化器内科。手術以外に根治療法がなかった時代です。内科医は、根治を望めない肝臓がんの患者さんの診療にあたることになります。
当時の肝臓がんは今よりずっと治療成績が悪くて、多くの方がなくなっていました。2010年に発表された第 18 回 全国原発性肝癌追跡調査報告によれば、肝細胞癌の5年生存率は、1978 年―1985 年の9.5%(10人に1人以下)から、1996 年―2005 年の39.3%(3人に1人以上)にまで改善しています。
僕の幼少時の記憶に残っているのは「9.5%時代」よりちょっと前の1960年代後半から1970年代が中心です。
好むと好まざるとに関わらず、父は肝臓がんのターミナルケアに携わることとなりました。
容態の悪い患者さんがいるのはいつものことのようでした。 年間に書く死亡診断書は国立がんセンターで一番だったと聞いています。(毎年そうだったかわからないけれど、少なくともそう言う年はあったとのことです。)
そんな父と遊んだ思い出は僕には数えるほどしかありません。父は、毎朝朝七時に家を出て、夜十時前に帰って来ることは稀でした。日曜に父が家にいたのもあまり記憶にありません。僕が家に居なかったのかもしれないけれど。
当時は携帯電話なんてなかったので、病院からの連絡は電話でした。休日、床屋に行っている最中に病院から患者さん急変の連絡が入ったこともありました。その時は僕が、床屋まで走って知らせにいきました。
そんな、がんで亡くなる患者さんを数限りなく看取った父は、定年退職後、こう言っていました。
「がんはそんなに悪い病気とは思わない。なぜなら、少なからぬ人が死の準備をする時間を持てるはずだから。」
そして、自分ががんになった時、どのようなターミナルケアを望むのか、自分がどのような患者になりたいかを考えているようでした。実際、母との間にはそういう会話もあったということです。
若い頃のハードワーク、そして進行した悪性腫瘍の発見、闘病生活とターミナルケア。
確かに父はそう言う「ドラマ」を思い描いていたと思います。金子さんの「ドラマ」と重なる部分が多くあります。
ただ一点、金子さんの「ドラマ」全体の長さがあまりに短い点を除いて。金子さんの「ドラマ」は想定よりもずっと短いものでした。
僕の父は自分がライフワークとしていたターミナルケアを受けることなく、突然死と言う形でこの世を去りました。何の前触れもなく。
人生は思ったようにいかないものです。
そんな事を思いながら読んでいたらあっという間に読み終わってしまいました。
僕は今年歳男です。金子さんはこの年齢に達する前に他界されました。 でも、僕には、まだまだやりたいことも、やらねばならないこともたくさんあります。あるはずだと思っています。
そう思ってみると、金子さんはさぞかし無念だったことでしょう。
自分も他人事ではありません。あまりストイックにはできないけれど、できる範囲で健康管理を怠らず、健康に感謝しながら日々生活したいと思います。
PS: 個人的には同様の本として『小さな小さなクローディン発見物語―若い研究者へ遺すメッセージ 』の「ドラマ」が強く印象に残っています。
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