8.これからのターミナル・ケア
私は1992年10月茨城県立中央病院に移った。その年の9月にインフォームド・コンセントに関する面接調査を計画し、予備調査後に調査用紙を完成させ、国立がんセンター中央病院の倫理委員会に計画書と調査用紙を提出していた。当然国立がんセンター病院におけるこの研究は中止することになったが、インフォームド・コンセントに関する意識に地域差があるか否かを検討する最良の機会と考え、翌年に国立がんセンター中央病院で行った予備調査とほぼ同じ面接調査を茨城県立中央病院でも行った。
初めて外来を訪れた患者さんに対して、病歴聴取、診察と検査予定の説明の後、面接調査の主旨を説明し協力を求めた。面接調査を辞退した患者さんは、茨城県立中央病院の1例のみであった。表11はその調査結果の一部で、「もしがんならば病名を正しく知りたいと思いますか」との質問に対する回答である。希望しないと答えたのは、国立がんセンター中央病院の1例のみであった。その他、治るか、治らないか等、予後の説明に関する希望も質問しているが、知りたくないと答えた患者さんは、両病院とも10%以下であった。国立がんセンター中央病院は東京の銀座、茨城県立中央病院は茨城県の中央部、農村地帯の病院である。がん告知を含むインフォームド・コンセントに関する認識には、それぞれこれら両病院を訪れた患者間に差のないことを示している。
しかし、ここ3年間診療に従事していて、国立がんセンター病院と茨城県立中央病院の患者さんとの間には少なからず差のあることを知った。東京でも核家族を診ていたが、茨城では都会に核家族を排出して残った老人の核家族を診る機会が多くなった。患者さんの平均年齢も15歳前後高齢である。時には一人暮らしのこともある。
一般に高齢の患者さんは家族に依存し、家族は自分が全権をもった責任者としてふるまう。そして過度に保護的になり、時として患者さんにも基本的人権のあることを忘れてしまう。すなわち、家族がパターナリズムの世界に固執し、必要な医療にも抵抗する例が少なくないと感じる。
今はこのような家族と協調しながら、患者さんを主軸とする医療を展開する方法論について検討しなければならないと考えている。
*岡崎伸生、他:外来初診患者を対象としたインフォームド・コンセントに関する面接調査、都会と農村地帯の患者との比較、茨城県病医誌、12:116、1994.
表11 がんの告知について
症例数 希望する 希望しない
国立がんセンター病院 36 35( 97%) 1(3%)
茨城県立中央病院 36 32(100%)
合計 68 67( 99%) 1(1%)
設問:がんならば正しい病名を知りたいと思いますか
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