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希望は知性に宿る

「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー
』を読みました。

 

本書は超有名進学校、開成高校野球部を取材した本です。基本的には監督、部員へのインタビューと試合の実況からなっています。

 

これがなかなか面白い。面白く読める要素はいくつかに集約できます。

 

 

まず、チームの問題。そして個人の問題。

 

チームについて言えば、有名校のようなチーム編成はできません。まず、『初心者』が多い。そして、校庭を使えるのは週一回だけ。試験などがあれば簡単に一ヶ月近く間が空いてしまいます。だから、というわけではないけれど、チーム編成の発想ががまるで違います。

 

例えば、ポジションの決め方。

 

ピッチャーの条件。

 

投げ方が安定していること。これだけ。理由は相手に失礼があってはいけないから。投げ方がそこそこ安定していれば内野手。それ以外は外野。

 

守備。

 

自分の守備範囲のものをとること。ダブルプレーなんて必要以上。

 

打順。

 

一番打てる人が一番。

 

攻撃。

 

サインもバントもなし。一番打者が出塁し、二番がおくり、三番四番で得点、なんてセオリー通りの野球をやろうとしても、どうせできないから。とにかく打つしかない。

 

戦略は、当然のことであるかのように、よどみなく理路整然と説明されるけれど、みんなどこか普通ではありません。

 

 

 

なんとなく、ひと昔前の野球漫画、ドカベンとかに出てきそうなチームです。

 

体力も、練習時間もない、超進学校の神童達が、そのトテツモナイ知性を駆使して、里中、山田、岩鬼、殿馬のいる明訓高校の前に立ちはだかる、、、。マンガならそんなストーリー。

 

ただ、現実はそんなに甘くないのです。だから面白いのですが。

 

さぁ、「弱い」開成高校野球部が、いかにして「強い」高校野球部に立ち向かおうとするのか。

 

かなり笑いながら読ませていただきましたが、真剣だからこそ、の面白さです。

 

本書の大半は「弱い」開成高校野球部員は、個々の技術についてどう考えているのか、それをどうレベルアップしようとしているのか、という個人の問題についての取材記事によって構成されます。

 

何人もの野球部員のインタビューが紹介されます。一年生から三年生まで。一人一人の個性に光を当てます。ここで紹介される会話は確かに、普通とはちょっと違います。でも確かに普通の高校生らしさもちゃんと持ち合わせています。

 

普通と違うところは、間違いなく、みな頭が良い。だから、多くの選手たちは勉強をそれほど苦にしていない。進学校の高校野球部を取材しているので、お約束通り、勉強の話も質問されます。得意科目はみんな様々。古文が好きだったり、歴史が好きだったり、化学が好きだったり。

 

 

勉強も野球も自然に取り組んでいる感じで好感が持てます。

 

ある選手は、『正法眼蔵』を勉強して、野球をしている自分達を「道元キャラ」なんて言葉で表現したりします。脇の友人からの「道元は京都じゃなくて福井だろ。」なんていう突っ込みはサスガと思わせます。親鸞の浄土真宗が思い出せないと言うオチもついていましたが。

 

でも僕が一番違うと思ったところは、「頭の良さ」ではありませんでした。

 

それは「用心深さ」だと思います。

 

恐らく、彼らは無意識的に絶対間違わないようにしています。受験勉強の影響じゃない?って思いたくなる位。だから意見を求められると、まず、間違いのないところから、外堀を埋めるようにして議論を進めようとします。

 

インタビュアーとしての筆者ははやく結論にたどり着きたいので、核心を突いた(つもりの)質問をする。

 

なのに、返ってくる返事はまた外堀を埋めるものだったりする、、、。筆者も虚をつかれたように納得しそうになる、、、。読者は笑える位じらされます。

 

プレイについても、そんなに考えている間に実行に移してしまえば、、、なんていうまどろっこしさを感じます。

 

そんなまどろっこしさを一番感じているのが、野球部員たちを束ねる青木監督だと思います。実は、監督が一番面白いのです。

 

すごく熱い、すごく真剣な監督です。おかげでコメントがすごいです。

 

ちょっと抜き出すと、

 

『「ドンマイ、ドンマイ」
誰かが声を上げると、青木監督が怒鳴った。
「ドンマイじゃない!」』

 

『バットは振れず、守備も某然と玉を見送るようなプレイが相次ぎ、監督も誰を叱ればよいのかわからなくなっている様子で、「そう、こうやってふるんだ!イチかバチか!」と相手校の選手のスイングをほめたり、「俺だけが気合が入っているのか!」「さあやるぞ!俺がなんでやるぞ!って言うんだ。そのこと自体がおかしい!」と自らを責めていた。』

 

『「人間としての本能がぶっ壊れている!」』

 

『「普通の人間生活を送れ!」』

 

『「体ごと爆発!」』

 

『「人間のコミュニケーションとしておかしいでしょ!人間の会話としておかしい!コミュニケーションとして破綻してるんだよ!」』

 

こんな感じ。普通の野球部の監督が怒っているのとは、やっぱりかなり違う気がします。

 

監督は野球はジャンケンと同じ勝負事だと言い切ります。勝っても負けても、生徒たちにとっては何の優劣が変わるわけではない。だからこそ、徹底的に勝負にこだわろうじゃないかと。真剣にやろうじゃないかと。

 

弱いなりにこだわって、バクチのような戦法で活路を見出そうじゃないかと。

 

本当に真剣に考えています。それがある程度うまくいった時、東京都大会ベスト16という結果に結びつきました。

 

本書の後半であかされる監督の想いに、その真剣さの源泉がありました。

 

監督は自分が現役だった頃、打球が外野に飛んだ記憶がありません。チームのためになるように、バントの練習を徹底的にしたそうです。大学時代はマネージャーに転身しました。でもそんなのは人間の本性じゃない。監督はそう言い切ります。そして自分ができなかったことを生徒たちに託しているのでした。

 

『思い切り振って球を遠くに飛ばす。それが一番楽しいはずなんです。生徒たちはグラウンドで本能的に大胆にやっていいのに、それを押し殺しているのを見ると、僕は本能的に我慢できない。』

 

『生徒たちには「自分が主役」と思ってほしいんです。大人になってからの勝負は大胆にはできません。だからこそ今なんです。』

 

そして筆者の一言が大きな説得力を持って響きました。

 

『いかなる文脈でも「可能性」をねじ込むことが「教育」というものなのかもしれない。』

 

いかなる文脈でも可能性をねじ込むこと。

 

自分もそれをやっていかねばならないと素直に強く思うことができました。

 

 

 

(P.S. そういえば、彼らがやっているようなことを、極めて高いレベルで具現化し、頂点を極めた高校がありました。池田高校。闘将蔦監督は「攻
めダルマ」と呼ばれていたかと思います。同じレベルに到達することはないでしょう。「同じにするな」と怒られるかもしれません。でも、彼らが目指している
野球の遥か彼方には、「やまびこ打線」があるように思いました。あと、「さわやかイレブン」も。)

 

 

 

 

 

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