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腫瘍倍加時間 (Tumor doubling time) の想い

前回の続きです。

僕は自分の父と、同じ大学を卒業し、同じ内科に入局しました。その意味で父と僕は、先輩後輩です。

父は、僕の物心がついた頃からずっと、国立がんセンターというところで肝臓癌を専門として仕事をしていました。

臨床研修をうけながら、僕は肝臓を専門にしようと思うようになりました。意図したわけではありませんが、ここでもやはり父親の後を歩くこととなりました。

おかげである時から共通する領域に興味を持って話ができるようになりました。それはそれで良かったかと思っています。

N先生から「腫瘍倍加時間」を教わったのはそうした時でした。

なので、実家に帰って父との会話で「腫瘍倍加時間」が話題になったのは自然の流れでした。そうしたら、意外にも、父もそう言う仕事をしていたというではありませんか。

こんな論文まで発表していました。

Evaluation of the prognosis for small hepatocellular carcinoma based on tumor volume doubling time. A preliminary report. Cancer. 1989 Jun 1;63(11):2207-10.

Follow-up examination schedule of postoperative HCC patients based on tumor volume doubling time. Hepatogastroenterology. 1993 Aug;40(4):311-5.

N先生に見せていただいたグラフは腫瘍マーカーでしたが、父の場合は、画像診断(腹部超音波検査)によって測定した腫瘍径から測定した体積の倍加時間でした。

最初の論文は、15症例で腫瘍体積倍加時間と生存期間を評価したものです。要約するとこんな感じです。

治療開始前の腫瘍体積倍加時間は102±77日でした。全身抗がん剤治療または支持療法を行ったA群では、腫瘍体積倍加時間と生存期間に有為な相関を認めました。B群は手術症例の検討です。肝切除単独か、動脈塞栓術や全身化学療法後の肝切除により治療を行いました。この群では、腫瘍体積倍加時間の短い症例で早期死亡が認められ、腫瘍体積倍加時間で予後が良いと評価された症例に長期生存が認められました。

次の論文は、腫瘍体積倍加時間を考えて、肝臓癌の手術後再発チェックのための画像検査を、どのくらいの間隔で行ったらいいかを検討した論文です。

20mm以下の再発肝細胞癌19症例を31-331日に渡って経過を追いました。治療までの腫瘍体積倍加時間は39日から420日でした。腫瘍体積倍加時間の平均は112日、中央値は80日でした。このデータを基に手術症例などでの再発チェックは少なくとも4ヶ月ごとの画像検査を提唱しています。

上に挙げた論文たちは当時(約25年前)の画像診断、治療法などに基づく解析です。『古いか?』と言えばさにあらず。

PubMedという米国の論文データベースで調べてみると、「tumor doubling time」という言葉で検索すると、今でも毎年120−150本の論文が発表されていることがわかります。このなかには様々な悪性腫瘍が含まれますし、動物実験をはじめとする基礎実験の論文も含まれます。それでも、『腫瘍倍加時間』の考え方は今でも変わらず応用できることの証左といえるかと思います。

前回書いたエピソードや、上記の論文のことなどもあり、腫瘍倍加時間(Tumor doubling tIme)という言葉、考え方には思入れとともに僕の頭の中に残っています。

普段の診療でも腫瘍マーカー等を評価したりする際、計算がメンドクサイのに、いつも気になってしまうのには、そんな背景があるのかなぁ、、、と自己分析しています。

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