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4.1981年頃からのターミナル・ケア ●進行がん患者に対する「がん告知」の評価2

1)がん告知を受けた患者さんの観察(主治医の評価)

 私の初期の段階でのがん告知は、家族、あるいは本人の要望に応えるかたちで行われた。要望に必然性があると直感的に感じた患者さんに、告知の影響や、不測の事態に備えての対策などは全く考えずに、がん告知を実行した。

 そして、話し合いながら事態がプラスに展開していることを感じると、ついエスカレートして予後の質問に対しても正確に答えてしまったのが実状であった。

 告知を希望する患者さんに対し受容能力を評価し、告知の是非を検討することは失礼と考えていた。また、受容能力の評価の仕方も知らなかった。

 当時の私はまだ治す医療にも貢献したいと考えていたので、この問題に関しては深く関わりたくなかった。

 千葉大学で学位論文の指導をしていただいた荒木英爾先生と、肝細胞がんの脂質生化学的な実験的研究も続けていた。生化学関係の国際誌に研究論文が採用された時には、本業が認められたと嬉しかった。アイデアも浮かんだ。しかし、臨床の場では主治医として治療した患者さんのうち、死亡退院された患者さんの割合や、病理解剖をさせていただいた患者さんの数では、国立がんセンター病院内科では1、2を争う治せない内科医であった。

 しかし、私は病院の管理者や同僚の医師や看護婦の目には、ターミナル・ケアに熱心な医師として映っていたようであった。この頃ある雑誌編集者からターミナル・ケアについて総説を書くようにと依頼された。何故僕が、と思って引き受けたが、後に石川七郎先生の推薦であることがわかった。先生は、当時がん病院にも精神科医が必要であると力説しておられた。

*岡崎伸生、末舛恵一:癌治療の進歩、ターミナル・ケア.Geriat.Med.,18:1233,1980.
 

 1981年に厚生省がん研究助成金による特定研究「がんの集学的治療に関する研究班」を組織された末舛恵一先生は、終末期がん患者の医療についてまとめる機会を与えて下さった。

 そこで、私は小班を結成し終末期がん患者に見られる合併症や疼痛対策、およびがん告知の問題を取り上げた。私自身はその機会に、主治医として7例の進行がんの患者さんに、がんである病名と終末期にある事実とを伝えた経験をまとめた。次にあげる表3はその一部である。

 進行がんを告知した後に、患者さんから受けた主治医の印象である。告知後患者さんは疑惑から解放されたかのように明るくなり、家族とはもとより我々医師や看護婦との間に信頼関係が確立されたと感じた。制がん療法にも積極的に参画するようになった。

 単なるretrospectiveな臨床経験の集積で、科学的根拠に乏しい主治医の印象をまとめたものであったが、当時の「がん告知」に関する一般常識論からは、大きくかけ離れた結論で、話し合う医療の重要さを実感させるものであった。この7例の中には、告知直後にショックを受けたと推定される人もいなかった。

 唯一マイナスと感じられた点は、表3に示したごとく死の直前に鬱状態の極と推定される症状を呈した症例の見られたことであった。

ふさぎ込んで、次第に意志の疎通ができなくなり、一見肝性昏睡状態と区別できない様相を呈した。このような病態は、腹水の出現や、夜間にトイレで立ち上がれなくなる等、重篤な事態に至ったことを認識させるような病状の変化に患者さん自身が気づいた直後に起こった。がんの告知との因果関係は明瞭ではないが、病名を知っているがゆえに、これらの病状の変化を死期の接近と感じて、間もなく襲ってくるであろう死の苦しみに対する不安が増幅し、一種の逃避反応として鬱状態となったのではないかと推定したが、将来何らかの方法で確かめる必要があると感じていた。

制がん療法を受けることには皆積極的であった。がんセンター研究所で開発中の新薬の実験台になっても良いと申し出た患者さんもいた。なお、制がん療法に対する意思表明のなかった2例は、死が接近した時点での告知例と、制がん剤療法の副作用の極に転入院してこられた医師の例であった。

*Okazaki,N.:Life of advanced cancer patients after knowing the nature of their own disease:A personal experience of seven cases. JJCO,13:703、1983.

表3 進行がんである事実の告知をうけた患者の観察

1.患者は疑惑から解放された様に表情は明るくなった  (7/7)
2.患者家族間の信頼関係が再確認された        (7/7)
3.医師や看護婦と患者との間に信頼関係が確立された  (7/7)
4.制がん療法に積極的に参画するようになった     (5/7)
5.終末期に鬱状態となった              (2/7)

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