4.1981年頃からのターミナル・ケア ●進行がん患者に対する「がん告知」の評価5
4)告知を受けた患者さんの評価
表8はがんの告知を受けて治療をした患者さんを対象にした、がん告知を含むインフォームド・コンセントに関する調査結果の一部である。
設問は、がん告知を受けて治療した「今回の入院経験から、病気の診断や治療予後の説明が受けられるとしたらどの様に説明してほしいですか」であった。「早期の群」は病気がとても軽い、あるいは軽いと患者さん本人が認識している26例、「進行した群」は病気が進んでいる、あるいは大変進んでいると患者さん本人が認識している23例である。表8に見られるように、がんかどうか、現在の病気と死の関連性、現在の病気が治らない可能性など、いずれの項目においても約70%以上の患者さんが、ぜひ教えて欲しいと希望した。できれば教えて欲しいと回答した患者を加えると、正しいインフォメーションの希望者は90%以上となった。これらの回答傾向に、早期のがんと認識している群と、進行したがんと認識している群との間に差はなかった。すなわち、がん告知を受けた自分の経験を、大部分の患者さんが肯定している結果であると見ることができる。
調査をした患者さんが、自分ががんであることを知って集ったがん患者の会の出席者であること、全員が女性であることなど対象に偏りがあるが、患者さんは、がんである病名ばかりではなく、その病気と死との関連性、あるいはその病気が治らない可能性についても知りたいと望んでいるのであった。
最近でも、学会などにおけるがん告知の是非の議論の場で、自分から求めてがんの告知を受けたが、その後食欲もなくなり死期をはやめる結果となった禅宗の高僧の例をあげ、がん告知に対する反対論を展開する人がいる。しかし、これまで述べてきた私自身の経験からすれば、この禅宗の高僧の例はむしろ例外的な存在と思われる。大部分の患者さんは自分の死について正しい情報を求め(表8)、それに耐えられる(表3、4、7)。我々は、過去に医学会の先輩が経験したただ一例のがん告知のデメリットを強調して、告知に反対するナンセンスから早く脱却しなければならない。
*種村健二朗:患者の望むがん告知—患者へのアンケート調査から—。ターミナルケア、3:315、1993.
表8 患者の希望する説明
患者の希望 早期の群 進行した群
1)正式な病名
ぜひ教えて欲しい 18例(69.2%) 22例(95.7%)
できれば教えて欲しい 6 (23.1%) 0 ( 0.0%)
教えて欲しくない 0 ( 0.0%) 1 ( 4.3%)
わからない 2 ( 7.7%) 0 ( 0.0%)
2)がんかどうか
ぜひ教えて欲しい 19例(73.1%) 21例(91.3%)
できれば教えて欲しい 7 (26.9%) 11 ( 4.3%)
教えて欲しくない 0 ( 0.0%) 1 ( 4.3%)
わからない 0 ( 0.0%) 0 ( 0.0%)
3)死との関連性
ぜひ教えて欲しい 19例(73.1%) 16例(69.6%)
できれば教えて欲しい 5 (19.2%) 5 (21.7%)
教えて欲しくない 1 ( 3.8%) 1 ( 4.3%)
わからない 1 ( 3.8%) 1 ( 4.3%)
4)治る可能性
ぜひ教えて欲しい 20例(76.9%) 20例(86.9%)
できれば教えて欲しい 4 (15.5%) 0 ( 0.0%)
教えて欲しくない 0 ( 0.0%) 2 ( 8.7%)
記入なし 2 ( 7.7%) 1 ( 4.3%)
5)治らない可能性
ぜひ教えて欲しい 19例(73.1%) 17例(73.9%)
できれば教えて欲しい 6 (23.1%) 4 (17.4%)
教えて欲しくない 6 ( 0.0%) 1 ( 4.3%)
わからない 1 ( 3.8%) 0 ( 0.0%)
対象:国立がんセンター中央病院婦人科、乳房外科でがんの治療を受けた患者、早期の群26例、進行した群23例
(種村:ターミナルケア、3:315、1993)
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