Bad press
以前書いた記事と関連した内容がNature誌の社説に掲載されました。
勉強のために全文を読みましたが、とても納得させられました。
(日本人がどれほど『先生』に対して礼儀正しいかは意見の分かれるところかもしれませんが、、、)
全体としては至極もっともなお話です。また、単なる批判に終わっていないところがエラいと思いました。
この記事に注目したり、報道したりするマスコミが日本にどれだけあるかわかりません。でも、ここで提唱されていることが実践されれば、科学報道の質は確実にあがります。
そうなってほしいと思います。
ただし、情報の受け手である僕たち日本人にも、責任があります。しっかりとその報道の質を見極めていかねばならないのだと思います。
参考までに、以下に拙訳を掲載させていただきます。翻訳における文責は全て僕にあります。
誤訳や不明な点などありましたらご指摘いただければ幸いです。
Bad press
Japan’s media have played a large part in exacerbating the effects of a fraud.
ひどい新聞
日本のメディアは詐欺の効果増幅に大きな役割を演じた。
山中伸弥氏の最近のノーベル賞が森口尚史氏の詐欺行為により汚されてしまったことは恥ずべきことである。森口氏は東京大学の研究員で、祭りのようにしてもてはやされている山中氏の技術、iPS細胞を心不全の患者の治療に用いたという作り話をでっち上げた。
この話を広く報道するに至った質の低いジャーナリズムは、科学報道に関して、日本などの国において、特段めずらしい出来事ではない。
読売新聞の森口氏の「偉業」に関する報道は特に残念なものだったが、今では、日本経済新聞を含む他の新聞も、過去10年にわたり、森口氏の語る未証明の話を報道してきたことを認めている。
研究の本質に難解さが含まれていることを考えれば、科学報道は萎縮してしまいかねない。
そこで、ジャーナリストが専門家を疑うときに助けになる実際的な手順がいくつかあるので紹介しよう。
まず、公表された論文を見ることから始めよう。
全ての科学者はその研究成果を論文として公表する。
もし彼らがそれをしていなければ警戒信号だ。
公表論文では科学者の所属が明らかされる。このため、何らかの疑義があれば、その科学者が自称している場所で、実際に働いているかどうかを容易に確かめる事ができる。(速やかにハーバード大学へメールを一通出していれば、読売新聞はこれ程恥ずかしい思いをしないですんだはずだ。)
公表論文は同時に共同研究者の名前のリスト(これにより科学者がやったと主張する実験を共同研究者に確認する事ができる)、資金供与者名(これにより資金を入手可能であったかどうかの確認ができる)、利益相反の公表(潜在的なバイアスを明らかにする)を記載している。
最も重要なのは、ジャーナリストが、当該科学者と共同研究をしていない、他の研究者たちと、研究の重要性と実行可能性について話をせねばならないということである。
このような研究者は通常、公表論文の引用文献を参照することで見いだす事ができる。
もし出来なければ、そして適切な引用文献が見当たらなければ、これまた警告の兆候だ。インターネットで調べれば、研究者の名前はすぐに見いだせる。
一般的に言って、科学者は文献から不正を排除することに熱心に取り組んでいる。他の地域にくらべ北アメリカやヨーロッパの科学者において、その傾向がより強いと言えることだろうが。
もしその業績が不正なものと思われれば、彼らは指摘してくれるだろう。
勿論、森口氏は彼の最新データはまだ論文として公表されていないと言っていた。
これまた新たな疑問を呼ぶきっかけになっていたはずである。
何故、彼は自分の成果をメディアに最初に公表するのか?
科学者にはそうすべき理由を持つものもいる。森口はそうではなかった。
そしてこの疑問を持てば、彼の経歴や過去の論文をもっとよく調べようと思ったはずである。
ネットで得られる彼の経歴から、彼が革命的な新局面を切り開いたと主張する、その領域で、ほとんど経験がないことが示唆されるのは何故か?
現実には存在していない、iPS細胞研究や臨床応用の大学研究部門で働いていると、彼はなぜ明言していたのか?
そして、一般的とは言えない、そして彼自身が熟知しているとも言えないテクノロジーを、彼はなぜ臨床応用したのか?
彼がNature誌から直接質問をうけたとき、事態はさらに悪化した。
例えば、彼は最新の研究における共同研究者を挙げることを、なぜ拒むのか?
表面的なことをつつくだけで、怪しげな供述が噴出してきたのだった。
世界中どこであっても、人は不正行為をうまくやりおおせることがある。しかし、日本においては特に、不正行為が報告されないという、文化的要因があるように思える。
日本人科学者は同業者に対し批判しない傾向がある。内部告発者は擁護されない傾向があるが、内意部告発者は自分のキャリアに傷を付けたくないと考えているのだ。
また、日本のジャーナリストはお上品すぎる事がある。恐らく、『先生』によってもたらされた素晴しいイメージに及び腰となり、ぶしつけな質問などしづらくなってしまうのだろう。
恐らくは英語に対する自信のなさや、時差が理由となって、彼らが海外の科学者と接触を試みる事はほとんどない。
加えて、最近日本において異常流行している『iPS細胞熱狂症』のまん延が状況を激化させている。
山中氏の先駆的業績についての大騒ぎのため、メディアの支局は新しいiPS細胞ストーリーを最初に獲得しようと押し寄せているが、情報の質を全く気にしていないことがある。
この傾向はiPS細胞技術に愛着を持ちすぎる一部の人たちによって油が注がれている。
多くのニュースが、iPS細胞研究を医学の進歩に応用する国際競争を報じ、日本がその競争に負けそうだと報じている。
この恐怖感が森口氏と読売新聞記者に霊感を与えた。森口氏はiPS細胞研究において、日本は後れを取る危険があると2009年に嘆きのコメントを寄せた(Nature通信欄 Moriguchi and C. Sato Nature 457, 257; 2009)。そして、読売新聞記者は森口氏の研究継続を許すような「臨機応変な」米国の承認制度まで夢想した。
全く馬鹿げたことだ。
iPS細胞技術についての美点と、まさにノーベル賞受賞理由の大きな一点は、世界中の科学者が容易に用いうることなのだ。
もし、山中氏の業績に日本がプライドを示したいのであれば、世界中の全ての進歩に賞賛を送るべきなのだ。
そして、もし、ジャーナリストが、新たな進歩の重要性を本当に理解したいと思うなら、彼らは、その新たな進歩を国際的な視野に立って評価すべきなのだ。
Nature 491, 7–8 (01 November 2012) doi:10.1038/491007b
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