ノーベル委員会はやっぱりすごいなぁ。と、思った。
山中教授、ノーベル医学生理学賞受賞、おめでとうございます。
僕が留学から帰国して、まだその記憶がリアルだった2006年の夏、Yamanakaがホームランを打ったようだ。という記事がネット上で話題となっていました。
論文掲載のため、40ページにも及ぶ質問すべてに答えねばならなかったらしい、、、などという噂話も聞こえてきました。(確認はしていませんが、、、)
その山中博士の成し遂げた仕事のなかにKlf4という文字を見つけて、僕は嬉しくなりました。
というのは、1998年、後にKlf7と呼ばれる事になる遺伝子UKLFを見つける仕事をさせていただいて以来、Klf遺伝子ファミリー(主としてKlf6)との関わりを持ち続けているからです。
留学できたのもKlfのおかげでした。というわけで、いつしか僕は、Klf遺伝子群に少なからぬ愛着を持つ「Klfオタク」になっていたのでした。
iPS細胞のおかげで再生医学研究は大きく進みました。そしてKlf4のおかげでiPS細胞に親近感を持っていた僕は、山中博士がノーベル賞の候補になっても、
「まぁ、当然だよね。」
と思っていました。大して知りもしないくせに。
けれど、山中博士が、英国のジョン・ガードン博士との共同でノーベル賞を受賞されたという発表を聞いて少し驚きました。無知蒙昧をさらすようですが、単独受賞だと思っていたので。
そして受賞理由を聞き、改めて考えてみれば、その通り、こうあるべきなのだと思います。そして改めて自分が浅はかだったと思いました。
そこで、どうして共同受賞する事になったのか、自分の理解をまとめてみようと思います。誤解、間違いなどありましたらご指摘ください。
動物は、受精卵という一個の細胞から、皮膚、神経、筋肉、血液、内臓といった様々な臓器の細胞ができて、一個の生命体となります。
一旦、各臓器の細胞として成熟したあと、その細胞は別の臓器の細胞に成熟しなおす事はできません。全ての細胞は、全ての遺伝情報を持っているはずです。なのに、「できない」のです。
ここで、この事実を説明する可能性は二つあります。(僕のアタマに思い浮かぶもの、ということですが。)
その一
細胞が成熟する過程で、不必要な遺伝情報を失ってしまった。
その二
細胞は全ての遺伝情報を保持しているが、使用するべき遺伝情報は厳密に管理されていて、それ以外の遺伝情報は使えないようになっている。
この問いに答えを出したのが、ガードン博士でした。
1962年、ガードン博士はオタマジャクシの細胞から取り出した細胞核を、核を取り除いた卵細胞に移植しました。
すると、その細胞は受精卵と同様の能力を再び取り戻し、オタマジャクシからカエルへと成長したのでした。
これは核の中に全ての遺伝情報が保存されていることを示しています。正解は「その二」であることが明らかになりました。
同時に、細胞を「卵」の状態に戻し、使えなくなった遺伝情報を、再び使えるようにする「何か」が核以外の細胞成分に存在していることもわかりました。
この『再び使えるようにすること』をリプログラミング(初期化)と呼びます。
そしてリプログラミングを可能にする「何か」は長らく生命の神秘でした。
山中博士はそれを明らかにしたのです。山中ファクターと呼ばれる事になる4個の遺伝子(Oct3/4、 Sox2、 Klf4、 c-Mic)を導入することで人工的にリプログラミングを起こさせることに成功しました。(ここでKlf4が出てくわけです。)
2万個とも言われる遺伝子を制御するリプログラミングがたった4つの遺伝子によってなされるなんて驚きです。これがホームランの内容です。
こうして、今回のノーベル賞は細胞のリプログラミングが起こりうることを見いだしたガードン博士と、それに関わる因子と方法を明らかにした山中博士が共同受賞することとなったわけです。
再生医学が実際に臨床応用され、患者さんに福音が届く日も、疾患によっては夢物語ではなくなりつつあるようです。
そのためにも、iPS細胞とその周辺の再生医学研究を強力にサポートすることは極めて大切だと思います。
ただ、今、僕たちは目先の成果に目が行き過ぎていないでしょうか。
今回のノーベル賞に関しては、そのブレイクスルーを実現した山中博士だけでなく、最初に扉を開いたガードン博士にも等しく表彰されたことがとても素晴らしいと思います。
奇しくも山中教授が生を受けた50年前、ガードン博士のカエルの研究成果が発表されました。この時、ガードン博士自身ですら、今日の山中教授の研究成果を想像することは不可能だったでしょう。
将来の日本の発展、人類への貢献を考えた時、ガードン博士のような学問の扉を開く基礎研究を充実させることもまた、大切にしてゆかねばならないと思います。
ノーベル委員会はやっぱりすごいなぁ。
そしてあらためて、おめでとうございます。
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