岩波新書「肝臓病」を読みました。
岩波新書「肝臓病――治る時代の基礎知識 (岩波新書)
」を読みました。本書を読んで感じたことが二つあります。
一つめは、『いま』を語っておくことの大切さです。
以前、同じ岩波新書で『医の現在 (岩波新書)
』という本を読みました。こちらも網羅的ですが、扱う領域が遥かに広く、社会とのかかわり合いにまで及んでいました。
本書はさしづめ『肝臓病学の現在』といった趣きです。著者は順天堂大学の渡辺純夫教授。有名な先生です。
『医の現在 (岩波新書)
』ほどの広がりはありませんが、個人的には、こういう本はあって良いのだと思います。
今、僕たちがどのように考えているのかについて、わかりやすい言葉で語っておくことが大切だと思うからです。
これを積み重ね、学び続けることによって、過去と現在を比較して語ることができるようになるのだと思います。
現在の理解を学ぶことは大切です。その理解が、どのような経緯を辿ってきたのかについて、正しく知ることは知識の奥行きを深めてくれます。
しかしそのようなことを語ってくれる「語り部」はそう多くありません。
専門家ならこのような啓蒙書に頼らず、教科書を読みなさい、論文を読んで勉強しなさい、と言われればその通りなのですが、、、。
なにしろ、肝臓病の世界、実は毎年のように変化があります。それを追いかけ続けていると、連続した変化の中で過去と現在の区別がつきづらくなってしまいます。
だから、こういう本で、肩肘張らずに「今」をオーバービューするのはいいことだと思うのです。
「昔はな、こうだったんだよ、、、、」なんていう「語り部」になるのには、どこかに基準となる「昔」が必要です。そのためにも、こういう整理をしておくとイイんじゃないかなぁと思います。
一方で、失礼ながら、岩波新書を手にするような読者で、この本を最初から最後まで通読する方はどれだけいるのだろうか、、、とも思いました。何しろ、一冊まるまる肝臓病です。複数の疾患について網羅的な説明がされています。
ご自身が肝臓病を患っている方もおられるでしょうが、大概どれか一つの病気です。本書に挙げられている肝臓病をいくつも併せ持つような、「世にも不幸な肝臓」をお持ちの方をあまり拝見したことはありません。
他人の病気まで含めて肝臓病の知識を得たいと思うヒトは、やっぱりそう多くないような気がします。
やっぱり本書の読者の一人は僕のような人間でないと、、、そう思いながら本書を読み終えました。
もう一つは、文字で得た知識に経験を加えることの大切さです。
肝臓病を患った時、人間ドックでひっかかった時、「肝臓ってなにやってるところ?」「肝臓が悪いと何が困るの?」「私の病気は、、、、?」と言う疑問を持ったとき、本屋に走るヒトはいま多くないでしょう。僕の感覚では、調べ物はまず、ネットです。情報化社会となって、インターネットにはイロイロな情報があふれています。
Wikipediaをはじめとするネット上の情報に加え、口コミサイトや、ブログなども情報源となるでしょう。
そうやって集められる情報は玉石混淆で、自分にとって必要な情報か否か以前に、その情報の信頼性を評価せねばなりません。
得られる情報には表現方法を含め、様々なバイアスがかかっていることが多々あります。個人的な体験談を安易に一般化するのは危険ですらあります。
本書は、真面目で面白くはないけれど、逆にヒトを煽ったりするような書き方はされていません。冷静な筆致で、肝臓病についての現在の理解がどういうところにあるのか、一般向けの言葉でわかりやすく解説されています。
ただ、冷静、客観的な表現は、感情をともなった現実の体験と乖離していることも事実でしょう。
本書の第一章では、筆者ご自身が急性肝炎になった実体験に始まります。ここで明らかなことは、肝臓の専門家でも自分の肝臓の診断は症状からできないのですね。
同じようなエピソードを、妊娠初期の「つわり」について聞いたことがあります。「つわり」を胃炎だと思って胃カメラ検査を受けた消化器内科の女医さんとか、長く続く二日酔いだと思っていた産婦人科の女医さんがいたそうです。
ほかにも、医者がこれまで診療してきた病気にかかって、目から鱗が落ちる話はよく聞きます。
まぁ、僕たちが紙で知りうる知識なんて、そんなものなのでしょう。
でも、全ての病気にかかるわけにもいきません。やはり、僕たちが職業として医療を仕事とする場合、冷静で客観的な知識を間違いのないところから仕入れた上で、経験による厚みを加えて行く必要があります。
患者さんから学ぶ気持ちを持ち続けなければいけないと改めて感じます。
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