学会後、男二人飯
学会からの帰り道。僕は翌朝、別の病院に出張する予定があったため金沢から高崎に向かった。そこで宿泊する予定だった。いや、実際宿泊したのだけれど。
まずは、金沢から越後湯沢まで「特急はくたか」に乗車した。
日本海の横目に見ながらしばし走ったあと、トンネルに入った。どの位の標高差があったのだろう。途中、気圧が大きく変化するため、耳抜きを何度もせねばならなかった。
そして、ようやく越後湯沢に到着した。ここで新幹線に乗りかえて高崎まで、あともうちょっと。電車から降りようとすると、
「あれ?お久しぶりです。」
すぐうしろにY先生がいた。
米国留学時代、友人を介して紹介していただいた知り合いの先生だ。メールでやり取りをしたり、学会場で顔を合わせたり、何とな仲良くさせていただいている。肝星細胞の細胞株を譲渡していただいた時にも、大変お世話になった。
つい最近知り合ったような気がしていたが、考えてみると、知り合ったのは、もう10年近くも前だった。
それなのに、改めて考えてみると、一緒に食事をしたり、酒を飲んだりということは今まで一度もなかった。
Y先生は前橋にお住まいだ。これから新幹線で高崎まで行き、乗りかえて前橋に帰るとのこと。僕は高崎宿泊。これも何かのご縁でしょう、ということで、高崎で一緒に夕食を食べることになった。
二人で高崎駅前の居酒屋に入った。その居酒屋は群馬の食材をつかっていることを売りにしていた。
食器、盛り付けは金沢と比べて素朴、豪快。鶏、肉がおいしい。味付けも明らかに違う。関東に帰ってきた感じがした。
そんな安堵感をを感じつつ、思わぬ人と人とのつながりに不思議な縁を感じながら、ビールを片手に話が静かに盛り上がる。
お互いに、ほとんど交わることのない人生を歩んできた。でも平行線であるかのように共通点が見出される。二人が同時に知っている人たちがいる。同じ世代、同じ価値観を感じる。多分、二人ともそれなりに地道に仕事や人生を積み上げてきた。
そしていつの間にか、オヤジになった。子供ができたり、若い後輩たちができたりして、人を教えたり、導いたりしなくてはならない年齢、立場になってきた。
自分が成熟しているわけでもないのに。
そんな会話の中、二つの話が心に残った。
ひとつはY先生と同じ病院で働いている、小児科の先生のは話。僕たちより10歳以上年長なのに、未だに当直業務をこなされている。
Y先生は言う。
「正直、前の日に殆ど眠れなかったりすると、ツライんですよ。翌日の治療精度に影響しそうなときってありますよね。本当にこんなシステムでいいのか?なんて思うんですよ。」
確かに、彼は、がんに針を刺して焼灼する治療も行っている。モウロウとした状態でできる治療ではない。
「でもね、60歳をすぎた先生が当直して、前の晩眠れなくて『ツライですねぇ』と言いながら、文句も言わずに仕事をされているのを見ると、『自分がそんな事言っちゃいけない』って思うんですよ。直接言った事はないんだけど、僕のなかで、その先生の存在は大きいんですよね。」
若い人からそう見てもらえるその小児科の先生は本当にエライと思う。僕も頑張らねばと思った。
もう一つは、Y先生が、ご自身の恩師の言葉をひいて語ってくれた、彼の言葉だった。
Y先生の恩師は、若い人の為にできるのは環境を整えるところまでだと話された。それを例えて
「馬を水飲み場まで連れて行くことはできる。でも飲ませることはできないんだ。」
と言われたそうだ。
そしてY先生は
「僕もね、水飲み場までつれてきてもらえたと思ってるんです。」
と語った。しみじみと。その言葉にこめられた感謝が心に残った。
彼の恩師は幸せだと思う。
自分がどうなりたいか、何をしたいか、遠くに何かが見えそうな気がした。
(最後に、ひとつだけ。今回の二人飯、なぜか、おごっていただいた。大変恐縮している。今度は機会を見つけて僕が支払おうと思う。忘れぬうちに宣言しておく。)
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