『すべてのアメリカ人のための科学』は日本人にとってもためになると思う
AAAS (American Association for the Advancement of Science) が出版している「Science for All Americans: Project 2061
」という小冊子があります。
一時、ネット上で話題になりましたが、先日読んだ本『もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)
』がきっかけで、久々に見てみました。
日本語版は、2005年に日米理数教育比較研究会によって『すべてのアメリカ人のための科学』(米国科学振興協会)として発刊されています。
以下のアドレスから無料ダウンロードができます。
http://www.project2061.org/publications/2061Connections/2008/2008-02a.htm
これは、米国おける科学分野での教育改革の報告書です。
これを推進しているAAASというのは、科学雑誌scienceを発行している団体で、米国の科学技術政策などにも深く関与しているようです。ちなみにScienceは発明王エジソンが最初に発行した科学雑誌で、現在もっとも権威のある科学雑誌の一つです。
この教育改革、1985年から76年がかりのプロジェクトです。その名も "project 2061" 。
なぜ、1985年からで、76年という数字がどこからきたのか、、、。
1985年におこった出来事がカギです。
この年、ハレー彗星の地球接近がありました。最接近は1986年1月でした。この1985年にこのプロジェクトが始まったのでした。
2061年というのはハレー彗星が次に地球に接近する年。
1985年に就学する自動は2061年にもハレー彗星を眺めることでしょう。
そしてこの時には全てのアメリカ人が、今より科学への造詣を深めて同じハレー彗星を眺めることができるように、、、、
ちょっとロマンチックな、そしてとっても骨太なプロジェクトです。
「全てのアメリカ人のための科学」では「科学への造詣」という言葉でなく、「科学的リテラシー」という言葉を用いています。
リテラシーというのは「読み書き能力」の意味から発展し、「与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力」という意味で用いられます。
僕たちも「科学的リテラシー」というものをもっとみんな意識したほうがいいと思います。。
「科学的」=「正しい」
ではありません。
ロジックの進め方もそう。
「1+1=2」。だから「2+1」は「3」なのです。
このような論理展開だけが「科学的」であるというのであれば、それは間違いです。
みんなそんな風におもっているから議論がおかしくなるんじゃないか。そう思います。
project 2061ではその辺をしっかりと説明しています。
第一章の提言に記されている「科学の本質」についての説明をみれば明らかです。
その項目を抜粋するだけでも見えてきます。
1) 科学的世界観について
1-1. この世界は理解可能である。
1-2. 科学的見解は変更されるかもしれないものである。
1-3. 科学的知識は永続的なものである。
1-4. 科学はすべての問いに完全な解答を提供する物ではない。
2) 科学的探求について
2-1. 科学には根拠が必要である。
2-2. 科学は論理と創作の融和から成り立っている。
2-3. 科学は事実を説明し、未来を予測する。
2-4. 科学は物事の同定を試み、偏見を排除しようとする。
2-5. 科学は権威におもねらない。
3) 科学的活動について
3-1. 科学は複雑な社会的活動である。
3-2. 科学は内容により専門領域に整理され、様々な研究組織で実施される。
3-3. 科学を遂行するにあたり、一般的に容認されている倫理的な原理原則というものが存在する。
3-4. 専門家であると同時に一般市民として、科学者は公共的な事項に参加するのだ。
今、世の中で流布している「科学的」な議論には、このごく一部のみを切り取っただけのものがよく見られます。
3)の要素はほとんど無視して、1-3を誤って理解し、ほかを飛ばして2-1と2-3を雑な議論でつなぎ、2-4、2-5を装いながら1-1を主張している様に思います。
すなわち、不確定な知識を固定化して根拠とし、連続性のない論理で事実を説明して未来を予測し、偏見を排除しているようにみせながら、実は結論ありきの姿勢で事象を説明しようとしている、そんな風に見えます。
風評被害なんてのは最もひどい例ですが、それ以外にも、断定的で説得力がありすぎる言説にはそのようなものが多い気がします。
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