スティーブ・ジョブスI, IIを読んで、彼はもう「歴史」なのだと感じました。
5年程前、橋本龍太郎元首相が、亡くなったときの読売新聞の記事にこんなのがありました。
橋本元首相が、リーダーに必要な資質を問われたのだそうです。この時の答えは以下のようなものでした。
「自分の夢に、自分自身が酔えること。相手に自分の夢が語れ、相手を巻き込んでしまう能力。」
読売新聞2006年7月2日朝刊より
スティーブ・ジョブス氏の、いいところだけクローズアップをするとこうなりそうな気がします。
と、いうのが、言わずと知れたベストセラー、スティーブ・ジョブスI、II、読了直後の感想でした。
ただ、読んでいる間はちょっと違いました。特にⅠ巻は読むのが苦しい位でした。なにしろ、成功体験と失敗体験がめまぐるしく登場し、全体として分の悪い戦いが続きます。そしてその全てのエピソードに彼の個性が色濃く反映されているのです。
成功体験もありながら、それを大きく上回るネガティブなストーリー。そしてそれらをなぎ倒してしまうほどの圧倒的なエネルギー。そして最後は勝者となる物語。しかし、病には勝つことができなかった、、、。
事実は小説より面白い、、、。
実話の「物語」としては大変面白いと言えるかもしれません。
でも、まだ「物語」とするにはあまりに生々しいと思います。なにしろ登場人物の大半が存命中、現役なのですから。そしてそのリアリティをもって読むと、読むのが苦しくなるような場面がいくつもあります。
都合の悪いものへの自己中心的な対応の仕方は、到底認容できるものではありません。また、意識して人を魅了することができる上、その技術まで駆使して彼が人をいたぶる様は、人格障害者ではないかと思う位、激しいものに感じました。
実際、彼は普通の人の枠組みを大きく逸脱した人だったのだろうとは思いますが、こんな人と一緒に仕事するのは大変だと思います。
特にⅠ巻では、読みながらスティーブ・ジョブスという人物に対して嫌悪感をもちました。こんな人とは仲良しにはになれないと思ってしまいました。
Ⅱ巻は『逆襲』です。成功体験がだんだん多くなります。『勝者』の語り口が増えます。Ⅰ巻のネガティブな体験があるだけに、耳に心地よいストーリーが続きます。でも、やっぱりあまり仲良くはできないかなぁ、、、。
ご本人も「発売されても当分読まない」と言っていたそうです。かなり真実に近く、振り返りたくない過去がたくさん書かれているである、ということなのでしょう。
それを自覚している彼となら人間関係を結ぶことはできるかも、、、。(むこうががこちらを向いてくれることなんかないのはわかっていますが、例えば、、、、の話です。)
本書の出版を認めた背景として、彼は、自分がこの世からいなくなった後、そのネガティブな側面ばかりが強調されることを恐れていたのではないか、、、と勘ぐってしまいたくなります。
そして、その生々しいストーリーがこれだけ読まれているということは、すでに、彼が伝説となり、歴史になっている、ということの証しでしょう。
最近の世人の語り口を見ると、往々にしてそのように思えます。普通に書くと「偉人伝」の感想文みたいになっちゃうんですね。
彼の才能が、他とかえ難いものであったことに異論はありません。いわゆるマーケティング調査など全く無意味だと感じさせてしまう程の、絶対的なセンスによる新たな市場を透視する能力を彼が持っていたのは確かだと思います。
だからこそ、スティーブ礼賛のコメントは、気をつけないと、『勝者によって語られるカリスマ』、『勝者によって語られる歴史の一側面』のようになってしまいそうで、軽々に口にできないと感じます。
真似できない、友達にもなりたくないような人物の一代記ですが、それでも、彼の集中力とセンス、こだわり、粘り強さは大変強く印象に残りました。
そして、それでもやっぱり、(ブログ開始当初から副題にも引用させていただいていますが、)彼のスタンフォードでの講演は素晴らしいと思います。
« 素人的体重減量作戦再開事始、年頭からヤバいことになっている。 | トップページ | ダイエット食としてアルファ化米を食べてみた »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 才能の科学(2024.02.11)
- 海の見える病院(2024.02.03)
- 「きしむ政治と科学」「1100日間の葛藤」(2024.01.28)
- 自然、文化、そして不平等(2024.01.14)
- ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る(2023.11.12)
« 素人的体重減量作戦再開事始、年頭からヤバいことになっている。 | トップページ | ダイエット食としてアルファ化米を食べてみた »
コメント