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「動的平衡」を読みました。このような考え方は、生命現象を扱う科学としてのみならず、人生哲学や行動哲学としていろいろな局面で応用可能だと思いました。

 『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか 』を読みました。福岡ハカセのサイエンスチックなロマンチシズムにあふれたエッセイ集です。

 ハカセは『動的平衡』という言葉がとてもお好きなようです。そしてその視点からいろいろなものを見ようとしています。動的平衡とは、入ってくるものと出て行くもののバランスがとれて、一見して何も変わらないように見える状態のことを指します。

 一見まとまりなくあつめられたエッセイ達ですが、みな、動的平衡的視点から見直してみる事が出来ます。

 プロローグでは、ハカセのかつての恩師がおこしたベンチャー企業についての話が紹介されます。現れては消えゆく数あるベンチャー企業。多くは淘汰され、生き残れるのは一部しかありません。ハカセの恩師も生き残ることはできませんでした。けれど、バイオ産業に魅力があり続ける限り、新規参入者がつねにあるため、全体としての傾向は大きく変わらず、人間社会のなかに存在し続けます。

 第1章では記憶について語られます。かつて、「記憶物質」の存在が仮定され、追求されました。実際にはそのような物質は存在せず、記憶はネットワークの構築による事がわかってきました。記憶は物質的なものとして神経細胞のなかにあるではなく、恐らく神経細胞の外側にあると、ハカセは言います。神経細胞相互の関係性によって存在しているというのです。新たなネットワークの構築により記憶が生まれ、使われないネットワークは徐々に消失し、記憶としても失われていくというわけです。これも「動的」な記憶の平衡状態といえるでしょう。

 第2章では個体に焦点を当てて動的平衡状態が説明されます。かつて、ルドルフ・シェーンハイマーはある仮説のものとに実験をおこないました。その仮説とは、「食べたものはエネルギーとして消費され、排泄されていく。」というものでした。ところが仮説は裏切られます。食べたものは体の構成要素の一部として取り込まれていったのでした。そして体の一部となりました。何も変わらないように見える体を構成する分子は、食べたものを構成していた分子と徐々におきかわっていったのです。

 第3章では栄養素としてのエネルギーを考えます。数ある「栄養素」の中で唯一、ほぼ無限に蓄積できるものです。食事の加療摂取によって生じる余剰のエネルギーは脂肪として変換されます。そして、必要時にエネルギーに変換されて使われます。このエネルギーの『動的平衡』状態が、供給過多の方向に破綻した状況が肥満と言えます。

 第4章は食品についてです。ここでの問いは、「添加物、遺伝子組換え作物は動的平衡を乱すか?」ということについてです。筆者は明快な答は提示していませんが、
 『生命現象という「効果」が生み出されるためには、驚くほど数多くの部品と部品の相互作用がタイミングよく生じる必要がある』
 『生命を「それぞれ特有の機能を持った部品の集合体」という要素のレベルでのみ考えると、時間の重要性を見失ってしまう』
と言った表現で警鐘を鳴らします。

 第5章では、ノーベル医学生理学賞を受賞したES細胞、ノックアウトマウス技術を語ります。ノックアウトマウスとは、特定の遺伝子を働かなくしたネズミのことです。この技術を、動的平衡を破壊することによって生命現象を探求しようとする一つの方法論であるという視点からハカセは語ります。しかし生命はそれほど単純でもろいものではありません。一つの遺伝子を働かなくしても、多くの場合、生物は他のやり方で動的平衡状態を現出し、生命を存続させ続けるのでした。

 第6章で語られる人間と病気との戦いも、『動的平衡』。時に勝利を収めているように見えますが、新たな難敵が出現し、結局、その戦いはずっと続いています、、、、。

 第7章の話題は、細胞内で独自に動的平衡を保ち続ける小器官「ミトコンドリア」です。これを解析することで人類の『母』が16万年くらい前にアフリカに存在していたことを知ることができるのでした。

 そして最終の第8章。本書では、ルドルフ・シェーンハイマーの仕事が何度か繰り返してでてきますが、最後は再びここにたどり着きます。そして、彼の業績をもとに、一つの分子を追跡する超ミクロの目で見れば、生き物の体は常に壊されながら作り替えられ続けていて、各分子はその体に一時的に淀んでとどまっている状態にすぎないだといいます。(第8章表題の「生命は分子の淀み」という表現は第1章でも使われています。この元に戻ってくる手法は『世界は分けてもわからない (講談社現代新書) 』でも使われていた、ハカセお得意の手法かと思います。)

 『細胞分裂が起こらないとされる心臓や脳でさえ、個々の細胞の中身はどんどん壊され、新しい分子に置き換えられている。一見、永続的に見える骨や歯も、その内部では常に新陳代謝が進行し、壊されながら作り替えられているのである。』

 そしてハカセは、この「恒常的な淀みを維持される状態」を改めて『動的平衡』と呼び、この動的平衡にあるシステムこそが生命なのだと結論します。そして、この分子が淀んだ動的平衡状態を「生」と定義した後、老化を、生命におけるエントロピー増大の法則を重ねることで説明します。あまりサイエンティフィックではないかも知れませんが、とてもサイエンスチックでロマンチックな福岡ワールドに納得してしまいます。

 ハカセは本書を通して、様々な事象において精妙なバランスを保ち続けるためには、絶え間なく壊し、絶え間なく作り直すのが唯一の方法であると主張します。

 このような考え方は、生命現象を扱う科学としてのみならず、人生哲学や行動哲学としていろいろな局面で応用可能だと思いました。

追記:「なぜ勉強するのか」という問いに対し、「自らを解き放つために勉強するのだ」と解答する本書での考察も大変興味深いものでした。

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