ムンテラとインフォームドコンセントは違うと思う
最近、病院機能評価というのを受けるため、我が大学病院でもイロイロな検討委員会が立ち上げられ、様々な改善に取り組んでいます。そのなかで、「ムンテラという言葉を使わないようにしよう」というのがありました。正しくは「インフォームドコンセント」や「IC(インフォームドコンセントの頭文字をとった略語)」という言葉を使うのであると指導されているとのことです。
「ムンテラ」という言葉について、ご存じない方もおられるでしょうが、医者の間で古くから使われる和製独語の省略形です。
もともとは、「口」と「治療」という意味を表す独語「mund」「therapie」をくっつけて創作した「ムントテラピー」の略とされているようです。僕はそのように先輩から教わりました。
もととなったムントテラピーという言葉は日本でもドイツでも全く使われないようですが、ムンテラは日本中で普通に用いられています。
このムンテラという言葉、アンシャンレジーム的医療を想起させるのでしょうか。
「口で治療する」とはどういうことか!
「言いくるめる」ということではないのか?
または上位者てき立場から医者が患者さんに「施しをしてあげる」ための説明という意識があるのではないか?
僕が思いつく用語としての「ムンテラ」批判は上記のようなものです。たしかにムンテラという言葉の使い方にパターナリズム的医療の名残を感じることもあるので、そこは気をつける必要があります。
でも、言葉というものはそう簡単に置き換えられるものではありません。
僕は「ムンテラ=インフォームドコンセント」ではないと思うのです。
検査や治療を行ったり臨床研究に参加していただくのに際し、患者さんに説明をし、同意していただき、文書にサインをいただくことを「インフォームドコンセントをとる」「ICをとる」と言いますが、「ムンテラをとる」とは言いません。
ムンテラという言葉には、納得した上で同意していただくという内容は含まれていないのです。
では医療を行う際、主役である患者さんの納得や同意が含まれないこの用語は必要ないのでしょうか、、、。
僕は「病状説明」という観点からこの言葉はあってよいものだと考えます。
医者が病状、病態をどのように把握し、考えているかということについて、患者さんと共通認識をもてていない場合があります。また、患者さんによっては病状を理解できていなかったり、受け入れられていない方がおられます。
このような場合、患者さんの病状をどのように考えているのか、それに対してどのような方策が望ましいと思われるのかを、説明し納得していただくことはとても大切です。
病状によっては、薬などの処方をする事なく、日常生活での生活習慣の改善で病状が快方に向かうこともあるでしょう。これは究極の非侵襲的治療だと僕は考えています。この意味で、「ムントテラピー」、「口による治療」というのは、悪い表現ではないと思います。
勿論、それだけで病気が全て良くなる訳ではありませんが、こと、慢性疾患に関していえば、このような日常管理は非常に重要です。
ムンテラという言葉をインフォームドコンセントという言葉と置き換えるという事は、このような病状説明的治療を、検査の同意文書にサインをしていただく時に使う言葉と同じ用語で表すことになってしまうと思います。
僕が違和感を感じるのはここの部分です。
ムンテラという言葉に悪しきイメージがあるので使わないように、ということであれば、別の用語を用いるようにするべきと考えます。
いい言葉だと思うんですけどねぇ、、、。
ちなみに、「インフォームドコンセント」の日本語訳はありませんが、中国語では「知情同意」と言うそうです。これも、なかなかよい漢字訳のように思います。
« 素人的実戦医歯薬系小論文事始 インフォームドコンセント | トップページ | パウル・クレー展の展示手法がおもしろかった。 »
「医系小論文」カテゴリの記事
- 麻布中学「ドラえもん問題」(2013.03.21)
- 温故知新(2013.01.28)
- 「僕の死に方」(2013.01.07)
- Bad press(2012.11.03)
- 今朝の『NHK 視点・論点「小児の脳死臓器提供~その次に見えるもの~」』で感じたこと。(2012.07.03)
「医学 医療」カテゴリの記事
- 海の見える病院(2024.02.03)
- 4月20日感染制御の日(2022.04.21)
- 医療連携について(2022.02.12)
- 予期せぬ瞬間 医療の不完全さは乗り越えられるか(2019.11.07)
- 背中(2019.05.25)
« 素人的実戦医歯薬系小論文事始 インフォームドコンセント | トップページ | パウル・クレー展の展示手法がおもしろかった。 »
コメント