「新編弓張月」面白かった。滝沢馬琴、侮るべからず。(子供向き書籍ですが)
伝説の英雄 源鎮西八郎為朝が大活躍するSF大活劇。天下無敵でありながら悲運の為朝が大活躍します。
元々のストーリーは源為朝伝説に由来します。保元の乱の後、伊豆大島に流され、そこで生涯を終えたはずの為朝が、実は琉球にわたっていて、その子が後の琉球王になった、という伝説です。
これを下敷きに書き上げられたのが椿説弓張月。原作者は南総里見八犬伝で有名な滝沢馬琴です。
新編弓張月はこの「椿説」を子供向けに「翻訳」してされたものです。長男が大好きで、僕に勧めるものだから、「共通の話題を持つのもいいか、、、」と読み始めました。
そしたら、どっこい。面白いじゃないですか。
このくらい易しいのが僕には丁度良いです。一気に読んでしまいました。
上巻は保元の乱とその後を中心に描かれ、下巻は大島に流されて後の為朝が描かれます。わかりやすい勧善懲悪でありながら、ストーリーはそれなりに複雑で、下巻のストーリーで重要な「鶴のエピソード」などが上巻に必要不可欠な形で織り込まれています。そしてストーリーの随所に妖術、呪術、仙人などがおどろおどろしく登場します。 一方で、そういった妖術を操らない生身の人間のはずの為朝が、これまた強いのなんの。現代のヒーロー達は多くが普段の生活では身元を隠していますが、為朝はそんな事はしません。普段から堂々と人前に出るスーパーヒーローです。
このスーパーヒーロー、一つの特徴は、戦に敗れ、様々な苦難に巻き込まれるにもかかわらず、忠義にあつく、ねじれたところが全くありません。辛い苦労の中にあって悲惨さはみじんもなく、常に闊達です。心身ともに健康この上なし。それなのに、彼は常に死に場所を探しているという、今ではあり得ない精神構造です。
生かされているという感じ方や、死してその役割をとげるという行動、価値観が物語り全体に流れています。この価値観はオオカミにまで共通しています。
「死ぬ気で頑張る」という表現は英語にはないそうです。この物語は死ぬ気で頑張る人にあふれています。そして、その思いを遂げられなかった何人もの人が現世に漂い、生ある人達の手助けをして行きます。
当時の人たちは、そんな事をリアルに感じながら日々生活していたのかもしれません。
当時とは丁度200年前。椿説弓張月は、1807年から1811年かけて書かれたとのことで、なんと、今年が物語完結後、丁度200年になります。
今見れば荒唐無稽な大活劇で、自分の感想をひと言で表せば「江戸時代版Lord of the Ring」って感じです。これだけで十分面白いです。
一方で、当時はどこまでをリアルな話として感じられていたのだろう、と思いながら物語を味わうのも一興だと思いました。
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新編弓張月〈上〉伝説の勇者 著者:三田村 信行 |
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新編弓張月〈下〉妖魔王の魔手 著者:三田村 信行 |
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