言葉を持った天才ザルの一例
症例:カンジ
誕生年:1980年
性別:male
種別:ボノボ
出身地:ヤーキーズ霊長類研究所フィールドステーション(米国アトランタ州)
家族:生母:ローレル(出身地:米国)、養母マタタ(出身地:アフリカ、ザイール)、妹:パンバニーシャ
診察所見:
体重:75キロ
外見:小型のチンパンジー、他、ボノボとして特記すべき所見認めず。
声帯:解剖学的な理由から、母音のみしか発音が出来ず、言葉を発することは出来ない。一方、食べ物を飲み込むことと、呼吸が同時に出来る。
検査所見:
ものの善悪などの抽象概念を含む、複雑な思考が可能である。
レキシグラムという機械とジェスチャーを用い、人に意思を伝える事が可能である。
1000語以上の単語を記憶している。
お気に入りのビデオがあり、「オースティン・テレビ」「ファイア・テレビ」「ゴリラ・テレビ」など、見たい番組を指定できる。
レキシグラムを使い、独り言を言う。
自分で石を割って「石ナイフ」を作る事ができる。作り方も自分で改良した。
テレビゲーム・パックマンを楽しむ。
考案:
ボノボは知能レベルの非常に高い類人猿である。カンジはその能力の一端を我々に見せてくれた。その精神性、社会性は、猿と人をまったく別のものとして区別しようとする考え方に疑問を投げかける。
1960年代から70年代にかけ、米国で、イルカやサルをはじめとする賢い動物を主人公とした物語が多くつくられた時代があった。その背景には、このような分野における研究の盛り上がりがあったのだと思われる。しかし、人と動物のコミュニケーションというロマンチックな夢のみでは研究の実用性に乏しい。
この実用性という観点からは、筆者の「類人猿の学習過程を研究することにより、障害を持つ子供達の教育方法の開発に応用する」という方向性は非常に興味深く、有用であると思われた。同時に、我々の知性がいかにして形成されてきたのかについて、知見が積み重なることを期待したい。
一方で、この種の類人猿を使った研究は、臨床医学研究における症例報告に類似する側面があり、一般論として議論しにくい側面がある。この事と、西洋のキリスト教的文化に根強く存在する、動物と人間をまったく異なるものと考えようとする感情論の存在が、欧米における霊長類研究の大きな壁となっているのではないかと思われた。
結語:
言葉を持った天才ザルの一例報告「カンジ―言葉を持った天才ザル 」著者 スー サベージ・ランボー、販売元 日本放送出版協会 を読了した。霊長類の研究を通じ、我々の知性の源が明らかとなる可能性がある。
本書を読んだいきさつ、、、、
震災で父親の部屋がこんなになってしまいました。
本が全て床に落ち、扉も開かない状態だったのですが、ドアを無理やり押し開け、なんとか中に入った時の写真です。そこで目についた数冊のうち一冊がこの本でした。
サルの本ですが、まるで人を紹介しているかのような描写だったので、症例報告的な形で感想をまとめてみました。
今では絶版となっているようですが、大変興味深く読みました。
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カンジ言葉を持った天才ザル【中古】afb |
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カンジ言葉を持った天才ザル【中古】afb |
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【中古】単行本(実用) カンジ 言葉を持った天才ザル【10P25Mar11】 |
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