予防接種は「効く」のか?
インフルエンザの流行はピークを越えましたが、まだまだ油断はできません。
実際そうなのですが、この記事に関しては、時期を外した読書のイイワケでもあります。
予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える (光文社新書) は、感染症の世界では相当に有名な岩田健太郎先生の本です。
過去の失敗や、医療における不確実性にも言及し、そういった事に配慮したとしても、インフルエンザワクチンの接種により予防効果を期待できますよ、好き嫌いは別にして。と、そういう本だと思います。
予防接種の失敗した事例として、日本での、ずさんなワクチン品質管理の事例、米国において、豚インフルエンザ大流行の予想が外れてしまっただけでなく、予防接種の副作用が過剰にクローズアップされてしまった事例などを紹介し、予防接種法や医療行政の問題に言及します。
一方で、インフルエンザワクチンの不要性について報告した前橋リポートの再検証し、インフルエンザワクチンの有用性についての新しい知見を紹介します。いずれもインフルエンザワクチンの臨床的有用性を示すもので、その有用性は明らかであるように思えます。
その語り口は理路整然としていて、切れ味するどいもので、ワクチンが好きとか嫌いとか言う感情論とは一線を画したものです。一般の人を対象とした啓蒙書ですし、ワクチンを接種する側の人間としてもこの位の知識を持っておくべきだと思いました。
なかでも、インフルエンザにおいてワクチンの「外れ年」というのはまずないのだ、ということは勉強不足で知りませんでした。
毎年国立感染症研究所でその年のワクチン株の選定経過をインターネットで公表していますが、「外れ」がないのであれば、「そんなに一生懸命予想しなくてもいいのかなぁ?」というのが素朴な疑問でした。まぁ、「外れても大丈夫、当たりであればなおいいでしょ」と言うことかもしれません。
一方、下世話な話ですが、「今年のワクチン、外れじゃない?」っていうのも、他愛のない話題としてわりと使えるものです。予想している方には申し訳ありませんが、そういう不純な理由も含め、予想業務は続けてほしいと思ってしまいました。
でも、本書で一番印象に残ったのは、次の一節でした。ちょっと長いですが引用します。
『何かの事態、例えばワクチンの副作用が起きたときなど、後ろ向きに見てみれば僕の言動に何らかの瑕疵を見つけることは実に容易なのです。揚げ足をとろうと意地悪な目をしてみれば(そして優秀な弁護士ならば常にそのような目をしていますが)、いくらでも問題点を指摘することだって可能でしょう。
しかも、よくて70点という医療の世界において、後からやってきて揚げ足とりをし、「ここがいけない、あそこがけしからん」と30点の至らなさを指摘してみても、それは「跡づけの説明」に過ぎないのです。
このような世界観で、ごくわずかな確率で起きたワクチンの副作用について、接種する医者や、許可を与えたり検定をする厚労省を攻撃、糾弾するならば、僕らは萎縮して「立ち去ってしまう」より他ないのです。
そして何より忘れてならないのは、最初に申し上げたように、実際には99%以上の方はワクチンにおける被害を受けていないのです。ほとんどの場合はうまくいっているのです。そのような事業をやっていて、まれにイレギュラーな事態が起きた時にそれを激しく糾弾する、という世界観を、僕は是としてほしくありません。
第一、そのような世界観が容認されるのであれば、なぜ警察や検察は「犯人を逮捕できなかった」ことで法的に糾弾されたりしないのでしょう。それどころか、冤罪があった場合ですら、法的に罰せられることはありません。』
人の行いにはミスも事故も、当然存在します。それらが存在しないとしても、医療は様々な不確定要素が存在することを前提としています。
治療結果、想定外の事が起きた。自分は被害者である。ならば、加害者が存在するはずである。という単純な論理だけで全てを片付ける事はできないはずです。
医療者サイドと患者サイドが対立構造の中でなく、そのような共通認識の上、協力関係のなかで、疾患、医療のみならず、思わしくない結果についても語れる世の中になってほしいと、改めて思いました。
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予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える (光文社新書)
著者:岩田 健太郎 |
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