ディッセ腔
組織学という学問があります。わかりやすく言えば、顕微鏡解剖学です。肉眼で体の構造について学ぶのが肉眼解剖学。ミクロのレベルで構造を学ぶのが組織学です。
普通にイメージされる解剖学とは少し異なりますが、医学を学ぶ上において絶対に必要な学問です。
僕が学生だった頃、授業をしてくださっていたN教授は大変厳しい方でた。組織学のN教授と生化学のT教授の授業は単位をとるのが大変な科目として学生達に恐れられていました。
組織学のテストは2年生の3月に始まります。僕もO君も当然のように不合格。その後、追試を受け続け、ついに4年生になってしまいました。後輩達と一緒に3世代受験です。
この時、さすがに留年の危機を感じた僕は、組織学の単位を取得する事に集中していました。あのときは結構がんばって勉強したつもりです。
試験当日。教室では、各学年の学生がアイウエオ順に横に並びました。
4年生は一番前。殆どの学生が単位を取得していますので、受験人数は随分少なくなっています。僕たちの学年は全部で2列で収まってしまいました。僕はMですが、O君の後ろでした。
大物のO君はラグビー部でした。前日に医歯薬リーグ試合があったそうです。その後祝勝会で朝まで酒を飲んでの受験でした。
試験会場で、ただ一人、ただの酔っぱらいのO君。
試験が始まってしばらくして、彼が僕の方をむいて、ひそひそ声で尋ねます。
「ラッシャー!」
当時僕はそう呼ばれていました。
「"Space of Disease" ってなんだぁ?」
聞いた事のない言葉です。大体N教授にそんな話をしているところを見つかったら即刻留年です。
「しらねぇよ、そんなの!」
問題を解いていくと「"Space of Disse"について説明せよ」という問題を見つけました。
"Space of Disse"(ディッセ腔)というのは、肝臓にある特殊な脈管構造における空間のことで、これにより肝臓の細胞と血液との間における化学物質の効率よい交換を可能にしているモノです。
酔っぱらいの彼はDisse(恐らくはディッセという人の名前)をDisease(病気)と読み間違えたのでした。
試験後、彼に聞いてみました。
「あの問題どうした?」
「おぅ、わかんねぇから『宇宙飛行士の病気』って書いといた。」
Space(空間、腔)まで『宇宙』と訳すとは、、、。
だいたい、それなら"Space of Disease"は『病気の宇宙』って訳になっちゃって訳わかんないだろ、、、。
しばらくして学生課の掲示板にO君の名前が掲示されました。彼はその次の追試では10点減点のペナルティを課せられたのでした。
でも彼は留年しないでちゃんと単位を取得したのだからすごいなぁ、と思います。
最初から勉強しろよって話ではありますが、、、、。
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