_

関連

無料ブログはココログ

« しあわせる力 | トップページ | ねじれ国会のいいところ »

安易な薬剤使用と病原体の変異

不定期医系小論文シリーズです。

テキストとして、「医系小論文テーマ別課題文集21世紀の医療 改訂版 (駿台受験シリーズ) 」を使っています。

今回は課題12b 「安易な薬剤使用と病原体の変異」です。


 フレミングによってペニシリンが発見されて以来、人類と細菌との戦いは、耐性菌との戦いであったとも言えると思います。

 けれど、見方を変えると、薬剤抵抗性と戦っているのは感染症だけではありません。多くの内科治療が薬剤と疾患の薬剤抵抗性との戦いであるとも言えます。高血圧だって、脂質代謝異常だって、糖尿病だって、治療薬があって、その治療薬に反応しにくい患者さんがいて、どうやってコントロールしようかとみんな苦労しているわけです。そのため、病態が解析され、新たな治療戦略が組み立てられ、新薬が開発されるわけです。

 ただ、そういった一般的な内科疾患と感染症が決定的に異なるのは、薬剤耐性を獲得する主体が人間の体ではない、別の生物であると言う点です。この薬剤耐性獲得の過程を生物としての病原体の側から見た場合、薬剤によってサバイバルストレスにさらされた病原体が、一種の進化をとげていく過程のように見えます。

 僕が思うに、本人とは別に薬剤耐性を獲得する主体が存在する病気が感染症の他にもう一つあります。悪性腫瘍です。まさにこの薬剤耐性と言う点で、感染症と悪性腫瘍は似ていると言えます。薬剤の作用機序、耐性獲得の機序はそれぞれ異なりますが、薬剤耐性の獲得阻止に留意しなくてはならないと言う点では似た側面が存在すると思います。

 そこで大切なのは「有効な薬剤を耐性が出現する前にしっかりと効かせる」という事だと思います。

 「しっかりと効かせる」ためには薬剤の種類と量と治療期間を正しく設定する事が大切ですが、ここの部分では悪性腫瘍と感染症の間で大きく異なります。抗がん剤と抗生物質とではその有効性と副作用が大きく異なるからです。

 いずれの薬剤も、悪性腫瘍細胞と正常細胞との「違い」、病原微生物と人との「違い」を治療ターゲットとして開発されています。たとえば、細菌が持つ細胞壁という構造は人間の細胞には存在しません。ですから、この細胞壁のようなものをターゲットにしている薬剤の一つがペニシリンです。これを治療ターゲットとする事によって、人の細胞には作用せず、病原体のみに作用する薬剤を開発する事が可能になるわけです。

 しかし悪性腫瘍と感染症の「違い」には根本的な違いがあります。

 それは悪性腫瘍は自らの体細胞から発症しますが、感染症は基本的に異なる生物種だという事です。悪性腫瘍細胞はもともと人間の細胞がもっている遺伝子の配列や機能の異常が病気の本体です。感染症の本体である病原微生物は全く異なる進化をとげてきた別の生物種ですから、その特性には細胞壁のように、最初から人間が持っていないものが沢山あります。

 抗がん剤の副作用が強い事は有名ですが、抗がん剤と比較して、抗生物質の副作用は、それほど問題となることはありません。しかも通常、抗がん剤よりも高い治療効果が期待されます。その理由がこの「違い」の「違い」にあるのです。

 副作用が少なく、治療効果が高い、ということは抗生物質は、抗がん剤とひかくして理想的薬剤に近いと言えます。

 しかし、この副作用が少ない点が、僕は安易な薬剤使用につながっているように思います。

 この場合、使用という言葉には医師が安易に処方するということの他、患者さんの服薬状況も含まれます。中途半端に服薬を止めてしまうことによっても薬剤耐性獲得のチャンスを病原体に与える事になるのです。

 薬剤を用いて治療する限り、病原微生物の「進化」を止める事はできません。彼らも生き残るために必死です。ですから、薬剤耐性の出現をゼロとすることは難しいと思います。しかし、薬剤の選定と使用方法を適切にすることにより、その出現頻度を限りなく少なくする事は可能になると考えます。

 前述のように、抗生物質は副作用が少ないので、必要のない場面での使用や、いいかげんな使用法によって、大きな副作用が出現する事はあまりありません。

 しかしそのような薬剤の使用が、病原体の「進化」を加速する可能性があるのだという視点を忘れてはならないのだと思います。

« しあわせる力 | トップページ | ねじれ国会のいいところ »

医系小論文」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 安易な薬剤使用と病原体の変異:

« しあわせる力 | トップページ | ねじれ国会のいいところ »