医系小論文テーマ 9-b 代理懐胎
今回の課題は、課題9-b 代理懐胎です。
代理懐胎とはいわゆる代理母による出産を意味します。その方法には複数ありますが、共通点は夫婦の妻以外の第三者の助成に妊娠・出産をかわって行わせる事にあります。
一部の疾患で代理懐胎によって初めて子宝にめぐまれる女性、夫婦がいることは確かだと思います。しかし、代理懐胎による出産は本質的に解消し得ないリスクを内包しています。
一つは、代理母の安全性についての問題です。どれだけ配慮するといっても妊娠・出産自体が一定のリスクをもつもので、これがゼロになる事はありません。
二番目には、代理母となる女性が、まるで「産む機械」であるかのごとくの立場に追いやられる危険です。代理母に求められる役割のなかに「人間性」が求められている訳では必ずしもありませんが、代理懐胎を依頼する夫婦と代理母との間の人間的なつながり、信頼関係の構築は不可欠で、これが三番目のリスクの回避にもつながるものだと思います。
その三番目のリスクとは、生まれてくる子供の福祉をめぐるリスクです。代理母となる人は自己の胎内において10ヶ月もの間、子を育むため、通常の母親と同様の母性も育まれることが考えられます。実際に代理懐胎が法的に認められているところでは、出産した代理母、代理懐胎を依頼した夫婦の双方が親権を主張して訴訟となっているケースがあるのだそうです。これは生まれてくる子供にとって望むべからざる状況である事は間違いありません。その解決に時間がかかったり、経済的な負荷が大きくなればなるほど、本来、最優先されるべき子供の福祉は脅かされます。
医療における治療適応は、リスクとベネフィットとの比較衡量によって決定されます。しかし通常考慮されるリスク、ベネフィットは患者本人にとってのものです。
代理懐胎においては患者本人のリスク、ベネフィットに加え、代理母のリスク、生まれてくる子供が不幸な境遇におかれるリスクについて考えねばなりません。
患者本人、代理母についてリスク、ベネフィットのバランスを考える事は重要です。しかし、子供の福祉に関しての考察にリスク、ベネフィットの比較衡量は意味をなしません。生まれてきた子供は心身ともに健康に育つ事が前提だからです。代理懐胎を依頼する両親が子供をどれほど幸福にできるかなど、定量できようはずがありませんし、どんな大富豪であっても、生まれてきた子供が訴訟などによって不幸な境遇に置かれてしまうのであれば、医療の目的を達したとは言えません。
子供の出生に関わる全ての人達が子供の福祉について真剣に考え、コミュニケーションを密にする事がリスクを減らす事につながると思います。
一方でこれらのリスクはゼロになることはありません。代理懐胎による出産の賛否は、リスクがどの位重要で、回避または解決可能と考えるかどうかによって変わるのだと思います。
代理懐胎についてのアンケート調査の結果を見ると、意見が大きく分かれています。それはこの価値判断が人により異なる事からです。
加えて、同じ母集団によるアンケート結果で、代理懐胎を一般論として考える場合とくらべ、自分がその立場となった時、代理懐胎を利用するかどうかという問いには「わからない」と答える人が著増します。これは、子供を持つという事は単に生物学的な事象ではなく、社会的な事象でもあるからだと思います。判断は周囲の付帯状況が大きく影響するので、一般論のみで割り切る事は出来ません。なので、その付帯状況の設定なしに「自分だったら」という問いに答えを出すことができないのです。実際、不妊症患者夫婦にあっても賛否は分かれますが、無回答の率は明らかに減少します。
自分の意見としては代理懐胎は先に述べたような本質的なリスクを持つもので、可能な限り避けるべきだと思います。
子供を得、育てる事を考える時、自己のDNAを残す事にこだわりすぎる事は、上記第三のリスクを軽視する事につながりかねません。
そういう点からすると、代理懐胎の適応はある程度厳しく制限するべきだと思います。制限のみならず、代理懐胎に関係する人はみな、リスク低減のためのコミュニケションを密にする事が必要だと思います。
加えて養子縁組などの方策で、代理懐胎以外に新たな家族を得るための選択肢を増やす事についても検討し、それぞれの価値観に合わせて、いろいろな解決方法の選択が出来るようにすることが望ましいと思います。
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