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医系小論文テーマ 8-a ES細胞とヒト・クローン胚

素人的医系小論文演習事始 

 

今回は、課題8a 「ES細胞とヒト・クローン胚」です

 課題文は2006年に出版された本によっており、成体の皮膚細胞をES細胞と融合させ、ES細胞と同様の分化能を持つ細胞を作製する技術が発表された頃に書かれたものです。

 iPS細胞作成技術の開発を始めとし、大きな技術開発の進歩がその後におこりましたが、再生医療実現のために課題がなくなったわけではないと思います。

 ただ、今回、この課題文をもとに議論するにあたり、指摘しておかねばならないことがあります。課題文のなかに問題点の混乱が見られると思うからです。(これは「医系小論文 テーマ別か第文集」が本の一部を課題文として抜き出してくるという手法を用いていることに起因するものかもしれません。)

 ES細胞を用いた倫理的問題の根本は、僕の理解では、ES細胞作製のために「一人の人間になる事ができる胚」を破壊しなくてはならないところにあります。

 ES細胞のような多能性を持つ細胞を用いて再生医療を実現しようとする場合の問題点として、従来のES細胞を用いた技術をそのまま当てはめようとすれば、他人の細胞にゆらいする臓器を用いる事になりますので、臓器移植と同様の拒絶反応が問題となります。ES細胞はその問題を乗りこえる可能性がある事から、そのための色々な試みがなされていたのだと思います。

 課題文の終わりで紹介されている皮膚細胞を用いた成果は、この「拒絶問題」を解決するための成果であって、ES細胞そのものの倫理的問題点を乗りこえたものではありません。この時点で根本的な倫理的問題が解決されたわけではありません。それにはiPS細胞の開発を待たねばなりませんでした。そして、iPS細胞技術の開発によって「拒絶問題」も「胚破壊問題」も現実的にはほぼ乗りこえられたのだと僕は理解しています。

 それでも、再生医療実現の過程で倫理的に気をつけなくてはならない問題があるのは間違いありません。

 再生医療実現の為に多能性幹細胞を用いて様々な細胞や臓器を作製する試みがなされていますが、その過程でクローン人間作製だけは目指すべき方向性とは異なるものだと思います。この点は課題文の指摘と同様です。

 その理由の中には現時点での技術的な危険性もあります。しかし、技術がどんなに進歩したとしても、倫理的に超えられない一線があると思うのです。

 自然界には一卵性双生児というかたちで、天然のクローンが存在しています。一卵性双生児の二人は遺伝学的に全く同一ですが、完全に独立した個人です。人工的に作製されたクローン人間が存在していたとしても、完全に独立した個人であるという点は永遠に変わらないはずです。ですから、他人がその人の臓器を医療に用いることを前提とすることなど出来ません。臓器提供は本人の自由な意思に基づくものだからです。

 クローン人間という別個の個人を作製する事は、細胞を提供した人間の疾患治療に役立つものではありません。ですので、僕の考えでは、再生医療のための技術開発にクローン人間作成技術が含まれる事はありません。人が人を作製しようとする事にまつわる倫理的問題と危険性を考えれば進むべき道でない事は明らかです。

 しかし、再生医療実現のための技術開発には、当然、臓器作成技術が含まれますから、クローン人間作成技術と共通するものもあるだろうと思われます。研究開発者はここの部分を注意するべきだろうと考えます。多能性幹細胞にさまざまな条件、刺激を与えて、分化させて行く中で、どのような状態になった時「個人」と認識すべきであるのかを定義する事が必要でしょう。

 自分がES細胞を扱った経験では、ES細胞を心臓の筋肉に分化させると、その細胞塊は拍動を始めます。ですが、それはどう見ても細胞の集団にすぎません。心臓としての機能もありません。ですので、拍動の始まりをもって個人の始まりとするのは違和感を感じます。それよりも「意識の始まり」をもって「個人の始まり」と定義するのが感情的には受け入れやすいものです。それが何時なのか、判断するのは難しく、定義を曖昧にしてしまうかもしれませんが、少なくとも臓器としての脳が形をなして機能してしまう事はあってはならないと思います。

 「世界は分けてもわからない」で福岡伸一氏が指摘しているように、「脳始」問題は再生医学の超えてはならない一線として重要な位置を占めると思います。

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