C型肝炎ウイルス感染とオクルディン
最近目にした興味ある論文の話。
C型肝炎は世界の肝疾患の主要な原因で、新しい治療法の開発が望まれています。けれども、特異的な抗ウイルス治療法やワクチンの開発は、簡単に利用できる小動物の疾患モデルがありません。
C型肝炎ウイルスは人とチンパンジーにしか感染せず、特殊な実験系でのみウイルスを増殖させることができます。このモデル不足のため、C型肝炎の薬剤開発研究が進まないと言われています。
これまでの実験で、ネズミの細胞内でもC型肝炎ウイルスは自己複製をすることが可能だとの観察があるのだそうです。この結果から、C型肝炎が人とチンパンジーにしか感染しないのは、ウイルスが細胞の中に入る段階でブロックがあるのではないかと想定されます。いったん細胞の中に入ることができれば、ネズミの細胞でも増殖できる訳ですから。
C型肝炎ウイルスが細胞に入って感染が成立するためには、CD81, Scavenger receptor class B type I (SR-BI), claudin-1 (CLDN1)などが必要だということがこれまでわかっていました。今回、これらの他に新たにoccludin (OCLN) が必要であることが報告されました。
さらに、面白いことに、C型肝炎ウイルスは、ネズミのSR-BI、CLDN1を、人のSR-BI、CLDN1と同様に利用することができるらしいのですが、CD81とOCLNは人のものしか利用できないのだそうです。CD81とOCLNがC型肝炎ウイルスの種特異性に関与していたということになります。
OCLNを強発現すると、これまで感染できなかった細胞にHCVが感染可能になり、HCVが感染可能な細胞でOCLNの発現を減弱させると、HCVは感染できなくなるのだそうです。
論文ではこの知見から、今後簡便なC型肝炎モデルを作製することが可能になるのではないかと述べています。
CLDNやOCLNなどは細胞間結合構造のひとつのタイトジャンクションを構成する因子です。
C型肝炎の話でタイトジャンクションの話が出てくるとは思いませんでした。
CLDN、OCLNを発見された月田先生の本(感想文はこちら)を思い出して、(天国にいても)純粋に喜ばれているのではなかろうかと思いながらこの論文を目にしました。
論文のリンクは下記です。
http://www.nature.com/nature/journal/v457/n7231/full/nature07684.html
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小さな小さなクローディン発見物語―若い研究者へ遺すメッセージ
著者:月田 承一郎 |
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