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雨傘

いろいろな所にものを置き忘れる事の得意な僕が、最近、殆どなくした事がないものがあります。

雨傘です。ミラ・ショーンのもので、もう10年近く使っています。渋めの紺、緑、茶を主体としたチェックの柄で、持ち手がこげ茶色の皮になっています。軸は木製で自分の手で開閉するものです。いわゆるジャンプ傘ではありませんが、そこがまた気に入っているところです。

以前はしょっちゅう雨傘をなくしていました。その頃は雨傘といえばビニール傘を使っていました。そりゃ、すぐなくしてしまうものですから、高価な雨傘なんか買えません。 そもそも、カサを雨傘なんて言っていませんでした。ビニール傘に雨傘なんて言うと、あらたまった感じがしてしまいます。

でもある時、高価な雨傘ならもったいなくてなくせないのではないかと考え、何となく気に入ったデザインのイブ・サンローランの雨傘を思いきって買ってみました。すると、三年近くなくさずにすんだのでした。

この傘、結局なくなってしまったのですが、別にうっかりして忘れたのではありません。

その日は朝からどんよりと曇った日でした。夜には雨が降るという予報をテレビで見たので、その雨傘を持って出勤しました。夕方から雨が振り出しました。そして仕事帰りに、築地6丁目にあるampmで買い物をしている間に盗まれてしまったのです。

以来、僕は、コンビニエンスストアに入るとき、外においてある傘立てに雨傘をおいておく事はしなくなりました。

さてその後、新しい雨傘を大枚はたいて購入するか、 それともビニール傘生活に戻るか、悩みました。価格が20倍とか違ってたりするわけですから。でも、一度気に入った雨傘をある程度の期間使うと、雨傘への 思い入れみたいなものが出てきます。それが忘れられず、結局新しい雨傘を買うことにしました。デパートを何件か見て歩いて購入しました。

それが初めに紹介した雨傘です。その時はまさか10年近く 使うとは思っていませんでした。

この雨傘にまつわる特別なエピソードがあるわけではありません。でも強い雨の日にはかわらずに僕を助けてくれます。この雨傘が前の雨傘みたいに盗まれちゃったりしたら、相当ショックだと思います。長時間を共にする事によって熟成される思い入れをしみじみ感じます。

物と人の関係だけでなく、人間関係にもそういう側面があるかもしれないと、梅雨の長雨に雨傘をさすたびにちょっとずつ思っています。

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