自分で考えるということ Appendix
こどもの日から延々とつぶやき続けてきましたが、とりあえず今日で一段落のつもりです。
自分で考える知力を身につけるために参考になるかと思われるのは米国で進められているPROJECT 2061と呼ばれる教育改革です。
何度か紹介させていただいていますが、これはハレー彗星が地球に近づいた1985年に始まりました。そして、次にハレー彗星が還ってくるころの子供達の教育に役立てようという事からこの名が決まりました。実に76年がかりの壮大なプロジェクトです。
1989年にProject2061の提言Science for All Americansの初版が発行されました。そして最近、Science for All Americansの日本語訳がインターネット上で公開されました。翻訳そのものは2003年頃になされたもののようです。その経緯の細かいことはわかりませんが、今になって公開されたと言うのは、以前に紹介させていただいたサイエンス系Bloggerの方々の動きがきっかけの一つになったのかもしれません。
Science for All Americansを読んでみると、そこで展開される内容は大変参考になります。「for All Americans」と銘打つだけあって、文型、理系の枠組みを超えた科学的世界観が示されます。言及は科学、技術、数学の違いと相互関係に始まり、社会的、文化的側面にまで及びます。そして科学、技術、数学の本質について深く理解し、自ら考えられるようになることを教育の目的とします。
「この世界は理解可能である」と、言い切ってしまうところなどは、良くも悪くもアメリカ的、という感じがしないでもありません。
一方で科学的知識は様々な確からしさを持つ概念から成り立つもので、全ての問題に完全な解答を提供するものではないと言うことを明確に宣言しています。この辺のバランス感覚や、随所に出てくるポリカルチャーを意識した言い回しにも良い意味でのアメリカらしさを感じます。
また、「科学とや何ぞや」の議論と共に、科学がいかにして「常識」を乗り越え、新たな理解に到達してきたのか、その歴史が語られます。この歴史の部分なんかは、学校でやってくれればすごく面白いのになぁ、と思いました。(読みながら浪人時代に勉強した「大学入試 必修物理」を思い出しました。今はもう絶版となってしまった物理の受験参考書ですが、ここで語られているようなエッセンスに満ちていたように思います。)
この本は数百人の科学者や教育関係者が関わって作成されたものだそうです。日本で同等のことが可能なのか、ちょっと疑問に思いました。コミュニティへ参加することについての意識の違いがそこにはあるような気がします。
ともあれ、ここで示される内容は自然科学にとどまらず、経済学や社会科学などにまで広がります。それは科学が人間的な営みだからです。そして、その知識を用いて現在の世界はいかに理解されるのかが示されています。教育をする人がこのような視点を持っているかどうかによって、科学教育の質に大きな違いが出てくるものと思います。
翻訳なので読みづらいところも確かにあります。文化の違いを感じるところもあります。(計算機の使用についてなどはあまりに肯定的で違和感を感じます。)しかし、読んでみると、大変納得させられるところがたくさんあります。特に科学そのものについての考え方、科学的知識に基づく世界観、そして幅広い基礎教育の重要性について、認識を新たにしました。
特に教育に関わる仕事をされる方には広くお勧めしたいです。
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Science for All Americans: Project 2061 著者:F. James Rutherford,Andrew Ahlgren |
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