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医療崩壊

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か  を読みました。 非常に深い思索に富んだ好著だと思います

筆者の主張を、煉瓦を一つ一つ積み上げるような緻密な論理をもって構築していきます。僕の理解では本書の主張を短くまとめると次のようになります。

現在日本は医療崩壊の危機にある。しかし、医療者側のみにその原因があるわけではない。世論次第で責任の重さが変わってしまうような、世論を背景にしたマスコミ報道や、「真相究明」という言葉で表現される訴訟による犯人探しの対象となる事に、医療者は疲弊しきっている事が大きな原因である。医療者の士気が下がっている。医療者がその場から立ち去りつつある。この点では、マスコミにも国民にも責任がある。この状況は自分たちが病気になったときに受ける医療を萎縮させるものである。医療を社会的善と規定し、公平性を保った公共の財として医療者の労働意欲を刺激するような施策をとらねばならない。

例えば、医師が訴訟で訴えられたときの業務上過失致死傷適応の可否については、下記のような議論があります。

P55
業務上過失致死傷で医療従事社を有罪にするとすれば、通常の医療と罪の境界があいまいになる。医療は常に前進しようとしている。常に反省し、もっと良い方法はなかったか議論する。医療行為の選択肢や変数は極めて多く、後からみるとこうしておけばよかったかもしれないと判断されるようなことは常にある。悪意を持ってみれば、業務上過失致死傷罪に問われかねないようなことは医療現場では常にある。患者が合併症で死亡したとき、反省の記録を残すとそれが証拠となり、-----業務上過失致死傷が成立する。

また、「医療はサービス業である」という意見に対しては、下記のようなThe Lancet誌の論説を引用し、議論を展開します。

P146
正しい市場とは、競争原理が機能し、情報へのアクセスが平等でふんだんにあるという前提で、消費者が自らの意志で参加するゲームである。ところが医学ではこのような前提は成立したことがない。医療はゲームではない。社会的善である。医療は競争をすべきものではない。医療は何より公平でなければならない。医療の情報を誰もが平等に得て、しかも、それを正しく読み取れるなどということは、かつてなかったし、未来永劫あり得ない。患者は消費者ではない。患者は純粋にただ単に患者なのである。

豊富な引用と緻密で冷静な論理展開により、感情的、一面的な議論に陥ることなく筆者の主張を展開します。

誤解のないように申し添えると、筆者は医療者に責任がないという主張をしているわけではありません。医者の責任も認めた上で、公正で建設的な議論を心がけて書かれていると思います。

医学と医療についての考え方、特に研究に関する部分において、筆者の主張に100%諸手をあげて賛成するわけではありませんが、主張には説得力があります。それは、臨床の現場の真実と問題点を確実に切り取っているからだと思います。

現状に不平不満をもつ医療者は多くいても、それをこれだけ説得力のある形で主張できる人は、あまりいません。多くはその場の感情的な議論に終始してしまいます。その点で、医療問題に関する自分の立ち位置をしっかりと見つめ直すのにはうってつけで、多くの方にお勧めできる本だと思います。文体や文章はかなり歯ごたえがあってしっかり読もうと思うと結構大変だとは思いますが、それだけの価値のある本です。

僕自身、人から推薦されて借りて読んだのですが、自分でも購入しようと思います。

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か Book 医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か

著者:小松 秀樹
販売元:朝日新聞社
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