チームバチスタの栄光
ミステリーを読んだのは何年ぶりでしょうか。作者が大学の先輩と言う事を知り、興味がわき、友人の勧めもあって読み始めました。
気がついたら物語にのめり込んでしまい、歩きながらも読み続け、あっという間に読み終わってしまいました。
感想の一番は、際立つ人物描写に強い印象を受けた事です。まるで切れ味鋭い彫刻刀で削りだすかのようにそれぞれの個性を鮮やかに描き出しています。それぞれの人物の配置も適切で、相互の人間関係なども必要な部分だけが切り取られて描かれます。必要にして十分な情報が整然と提供されるので、物語に集中できます。
そして、大学病院、医局という設定の描写が大変うまいと思いました。白い巨塔などで一般的になりつつあるとは思いますが、その中に身を置いた事のない人が感じるであろう多少デフォルメされた劇場性と、その中に身を置いた事がある人が感じるであろう閉鎖社会のリアリティがとても良いバランスで描かれていると思います。個人的にはちょっとリアルすぎるかなぁ、と感じるところもありますが、その辺は、僕以外の人には恐らく「劇場性」の部分に感じられるのだろうと思います。
主人公のキャラクター設定によるものかもしれませんが、本文中に出てくる患者さんが全部「さん」づけで呼ばれていたのはとても感じが良かったです。一方で、犯人の医療観にはかなり反論したくなりました。それだけのめり込んで読んでいたのでしょう。
ただ同時に、「このような表現は英訳するとどうすればいいのかな?自分が英語の本を翻訳したように、アメリカ人が訳したらどうなんだろう?」なんて知らず知らずのうちに考えている自分がいました。
本文中に出てくる「ガテン系の外科体質」「バックに流れるドナドナの旋律の空耳」「田宮の戦車シリーズ」「たまごっち」等は、「アメリカ人だったら訳に苦しむだろうなぁ」なんて思ってしまいました。
いつの間にか自分の経験にも照らし合わせ、翻訳に苦しむアメリカ人も想像しつつ読んでいました。
いずれにせよ、久々の熱中体験でした。
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チーム・バチスタの栄光
著者:海堂 尊 |
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