2008年6月 3日 (火)

恵介くんと肝移植

ある日体調が悪くなって病院に行ったら、医師の病状説明は死の宣告に近いものでした。C型肝炎に罹患しており、肝硬変の終末期にある、このままでは残された命はあと1年あまり、、、。

細谷恵介くんは28歳の若さでその状況におかれたそうです。

彼の命を救うためには肝移植しか道はありません。

移植医療を巡っては様々な問題が存在していて、いろいろな立場の意見があると思います。移植医療を受けられる道が大変狭い現状であっても、ルールを守る事が大切だと思います。

日本では肝移植は生体肝移植が主流ですが、恵介くんには生体肝移植を受けるという選択肢はありません。全国で一年に10〜15人しかいない脳死肝移植のドナーが現れるを待つほどの時間的余裕もありません。

そうなると、海外での脳死肝移植が残された選択肢となります。米国などでは5%が外国人枠として認められているとの事ですから、その枠内であればルールに則っているので、ギリギリ許容範囲内と言えると思います。

けれどもその為に6000万円というお金が必要だそうです。この金額は個人がそう簡単に捻出できる金額ではありません。

恵介くんを見て彼の友人達が立ち上がりました。「恵介くんを救う会」は彼の友人である20人近い若者達がその中核を占めます。しかし若い人だけでは様々な問題をクリアするのに難しい事が多かったそうです。年長者の方がその若者達の心意気を感じて代表となって下さいました。

今日、その恵介くんが海外で肝移植を受けるための募金を集う記者会見が、厚生労働省で開かれ出席しました。

 

詳細と募金の方法は「恵介くんを救う会」のホームページ移植支援協会のホームページにゆずります。

http://save-keisuke.com/

http://www.ishokushien.com/

今回、僕がこの記者会見に参加して、一番感動したのは、この若い人たちの気持ちと、その熱い気持ちを受け止めよう、導いて行こうと言う代表の綱島さんの心意気でした。ほかにも地域のお母さん方が活動に参加されているとの事です。

これ程多くの人たちが彼のために立ち上がってくれた、これは恵介くんの人徳を示すものでしょう。そしてこの若い人たちの熱い気持ちが人の命を救ったとき、健康な若者達の間にも、健康や医療へ意識が振り向けられるような流れが生まれる事を望みます。

2008年3月 5日 (水)

移植のポップス

先日、僕の勤務している病院でドナーアクションプログラムというのが行われました。これは、脳死臓器移植のドナーとなりうる患者 さんの識別に始まり、御家族のケアも含めて臓器摘出までの過程を効率的に進めようとするものです。

僕は参加していなかったのですが、今回行われたものは話 の内容から、EDHEP(European Donor Hospital Education Program)のようなもので、悲嘆家族と医療者とのコミュニケーション技能を向上させる事を目的としたプログラムであったろうと思っています。

このドナーアクションプログラムこられていたKankeriさんという方をご紹介いただきました。もともと臓器移植にもかかわるようなお仕事をされていま すが、趣味で音楽の自主制作を されているとのことです。そのKankeriさんが、臓器移植コーディネーターをしている方にお会いした事をきっかけとして、ポップミュージックを作成されました。Kankeriさんから直接、CDをいただき、聞かせていただきました。心にしみわたるような歌詞が優しいメロディにのって歌いあ げられます。

テーマは Grief Careだそうです。Grief Careは、大切な人を亡くされた御家族の心を癒す事を意味します。歌詞では、そのテーマを見据えて短い言葉でかたられる物語が展開します。

ドナーとなる方の命の終わり。

その遺志により新たに命を授かった方の感謝の気持ち。

そしてその後、

『触れるたびに たしかに感じる ふたつの命重なる 』

 

という歌詞がリフレインされます。移植により病気を克服した方は本当にそれを実感されるのでしょうね。そしてその人の存在により悲しみが癒される方々もおられるのだと思います。名前も顔も知らない人たちの間にこころの絆がむすばれます。

音楽の力で、ドナーファミリーのみならず、多くの人々に暖かい心を移植する事ができたらいいなぁ、と思いました。

肝移植をうけた最初のオリンピックメダリスト、スノーボーダーのChris Klug選手も自伝(奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語 )の中でこう言っています。

『僕は新しい肝臓を授かった。けれども、時には新しい目と心も移植されたのではないかと感じる事がある。特にサーフィンをやっている時や、山岳を見渡した りしていると、世界がいかに素晴らしいのかを改めて実感する。その時、自分が授かった贈り物への感謝の念がわき上がるのだ。』

彼は先日こうも言っていました。「僕の物語を日本の人たちと共有する事で、誰かを助ける事が出来ればとってもハッピーだよ。」

確かに彼は自分の体の中にもう一人の自分を感じ、感謝をどう表現したらよいのかわからない時もあったようですが、その後Chris Klug財団を設立し、移植医療の振興に力を注いでいます。

彼もこの曲で歌われている通り、『その価値に見合うだけの生き方を探して』いるのだろうなぁ、と思います。

曲は「こちら」で聴く事が出来ます。Kankeriさんのブログもお人柄が現れているようで素敵です。

Heart to HeartやKankeriさんのように自分の思いを「自分がやりたいかたちで」行動にうつしたり表現したりするという事はとても大切な事だと思います。

Kankeriさんありがとうございました。

2008年2月26日 (火)

残念、今年も

FIS スノーボードワールドカップin 郡上に行ってきました。と、いっても最終日のパラレルジャイアントスラローム PGS しか見ていないので、「見た」とはお世辞にも言えないのですが、、、。

PGSは青と赤のコースを二人の選手が競争しながらスピードを競って滑り降りる競技です。スキーとはまた違った見応えがあります。接戦になると、二人のスノーボーダーがまるでダンスをしているかのような華麗さがあります。

我が期待のクリス・クルーグ選手は今年もまた予選第一走で転倒、コースアウトしてしまい、昨年に続き予選落ちと言う、残念な結果となりました。

レース後、彼は、今日はとても「イイ感じで乗れていたのに、、、。残念だ。数日続いた晴天で硬くなった雪を昨日ふった柔らかい新雪が被っていて難しかったよ。It's not my day.」と言っていました。彼が転倒した箇所は他にも転倒した選手が多くいて、難しかったのは事実のようでした。

優勝したのは、ジェシー・ジェイ・アンダーソン選手。クルーグ選手と同様に長いキャリアを持つトップ選手です。

次のレースまで短い休みがあるようですから、リフレッシュして、次のレースからまた頑張って欲しいと思います。

Chrisnobu

2008年2月20日 (水)

スノーボードワールドカップin 郡上

今週の金曜日22日から24日まで、岐阜県郡上師の高鷲スノーパークで、FISスノーボード・ワールドカップが開催されます。

競技日程は22日 SBX スノーボードクロス、23日 HP ハーフパイプ、24日 PGS パラレルジャイアントスラローム、となっています。我がクリス・クルーグ選手は24日のPGSに出場する予定です。昨年、富良野でのワールドカップでは予 選落ちでした。2月17日韓国でのワールドカップに出場し43位でしたから、今頃は雪辱に燃えている事でしょう。いや、そんな昔の事なんて覚えていないか も。いずれにしろ、気合いでパンパンになっている事だけは間違いないと思います。

その前の北米カップのジャイアント・スラロームでは2位に入っていて、調子は悪くないと思うので、今年は上位入賞、できれば表彰台をと、期待しています。 彼はワールドカップでは最近勝利から見放されていますが、持ち前の陽気さと前向きな強い気持ちで上位に食い込んで欲しいと思います。

webで検索してみると、今回のワールドカップで授与されるメダルは県産品のヒノキで出来ているらしいです。日本の文化を何も知らないクリス君、もらったらびっくりするだろうなぁ。

なにしろ、昨年、彼の自伝が日本語で発売された時、「横書きが縦書きになってる!ページが逆にならんでる!!」とびっくりしていたくらいですから。(長野オリンピック以来、彼はもう何回も日本に来ているはずなのに、、、。)

2008年2月18日 (月)

Heart to Heart のコンサート

昨年、行われたHeart to Heart のイベントが今年も行われます。

昨年のチャリティコンサートでHeart to Heart NYCがサポートした阿波宏典君は元気に帰国され、多くの人たちに光をもたらしているそうです。よかったですねぇ。

昨年の大萩康司さんのクラッシックギターもとっても良かったですが、今年はバイオリン。NY在住のバイオリニスト竹澤恭子さんのリサイタルとのことです。

Heart to Heart 主催で2006年にも竹澤さんのコンサートが行われており、この時も大好評だったようですから、今回も期待できる事と思います。エドアルド・ストラビオリ さんとの競演は長年のものだそうで、陽気で明るいおふたりならではのエピソードなどもあるそうです。

息のあった二人による、暖かいコンサートになりそうで、是非行きたいのですが、、、 平日の夜で僕はちょっとキビシそう。

3月13日 木曜日 19:00開演
会場は代々木上原より徒歩約五分のMUSICASA(ムジカーザ) になります。

詳しくは Heart to Heartのホームページをご覧下さい。

2007年10月 8日 (月)

脳死・臓器移植の本当の話

 「脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書) 」を読みました。 

 臓器移植法が施行され10年になります。そういった中、この本は、脳死・臓器移植にはまだまだいっぱい問題点がありますよ、情報を吟味してご自分でよく考えて下さいね、と言う本です。基本的に。

 確かに移植医療、ことに脳死判定、脳死の診断と言う事には色々な議論、難しさがあるのだと思います。賛成にしろ、反対にしろ、議論がひろまって意識が高まる事は良いことだと思います。ただ、ちょっと分厚くて、内容もとっつきにくいかもしれません。

 僕の意見は、この本を読んでも基本的に変わりませんでした。

 他の人の意見はどうあれ、脳神経外科の医師が積極的治療を諦めざるを得ない様な状況に自分がおかれ、「脳死」と診断されたとしたします。僕個人としては可能であるなら自分の臓器を他の方の治療に役立てていただいて何の依存もありません。

別に変な意味で自分の意見に固執しているつもりもありませんが、そう思います。

 ただ、この時に「可能である」ことの前提として、僕の家族がその状況に納得できる事が必要ですが。

 今度の冬には、郡上で行われるスノーボードのワールドカップに行きたいと思っています。

 この大会に出場するクリス・クルーグ選手は、医療技術としての臓器移植と、臓器提供者・その御家族の善意がなければ、この大会に出られなかった事はまちがいありません。

脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書) Book 脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)

著者:小松 美彦
販売元:PHP研究所
Amazon.co.jpで詳細を確認する


奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語 Book 奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語

著者:クリス・クルーグ,スティーブ・ジャクソン
販売元:合同出版
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2007年2月16日 (金)

スノーボードと現代の奇蹟8

 マウントサイナイ医科大学で一緒に働いていた同僚から聞いた話では、クリスがマウントサイナイで講演をした時、こう話していたという事です。自分は肝移植手術を受けるまで、自分の体調がどんなに悪いのかを自覚することは出来なかった。新しい肝臓を授かって初めて自分がどれだけ重症だったのかを理解できた、と。

 「奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語 」を翻訳している間にもクリスのもとには、日本で肝移植手術を待っている患者さんからメールが彼宛に届いていました。彼は自分のポスターにサインをして彼に贈り、応援のメッセージを伝えたとの事です。

 こう言った事実を聞き、私は臓器移植普及だけでなく、患者さんを励ます意味でも、本書が貢献できるとますます信じるようになりました。

 本書により、クリスと同じ気持ちを実感できる患者さんが一人でも増え、いのちを大切にするメッセージが少しでも広まればと願い、心を込めて翻訳させて頂いたつもりです。

 そして、臓器移植推進のメッセージは本書のメッセージの一部と言っても良いと思います。この本は、人生をあきらめず、肝移植を受けてカムバックした奇蹟のスノーボーダーの物語です。真のメッセージは「いのちを大切にして、人生を楽しもう!」という事にあると思っています。新年早々、悲しいニュースが沢山流れていますが、そんな事のない世の中を望みたいものです。

 さぁ、今日のクリスの滑走はどうなるでしょうか。

 自分の自伝がこの絶妙のタイミングで出版される事を知った彼は、「もう、表彰台に登るっきゃないね!」という、いつにも増してエキサイトしたメールを送ってきました。

 応援したいと思います。

2007年2月15日 (木)

スノーボードと現代の奇蹟7

 話は少し前後しますが、クリスとメールでやり取りをしているうちに、この "To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder

" を翻訳して、日本に紹介したいと思いました。クリス本人に相談すると、「それはいい。是非日本でも出版しよう!」と快い返事。「著作権とかどうするんだ?」と、何の手順もしらずに矢継ぎ早に質問する僕に対し、クリスは「ちょっと待て、まず日本の出版社を見つけて、米国の出版社と交渉してもらう事が必要だ。」とアドバイスをしてくれました。そこで、以前友人に紹介してもらった出版社の方に相談をし、アドバイスをいただく事に。

 僕はこの本に思い入れがとても強いので、もう読みながら涙でグシュグシュになってしまい、支離滅裂な感情論を訴えるだけなのですが、プロの方は冷静にコメントをして下さり、さすがだなぁ、と感服しました。その結果、多少のハードルはありましたが、この本を出版する事の社会的意義を認めていただき、出版する方向で話を進める事に。

 翻訳の途中でぶつかったアメリカ文化特有の表現はインターネットのおかげでなんとか意味を汲み取る事が出来ました。

 キリスト教関係の言葉に関しては、韓国で牧師をしている高校の先輩にアドバイスを頂きました。

 文中のフランス語は今はスイスで学校の先生をしている中国系フランス人のNVさんにお世話になりました。


 その他、家族を始め、色々な人にお世話になり、協力してもらい、半年近くかかって荒訳が完成しました。それから日本語を直したり校正したり、結局全部で一年半近くの日が経ってしまいましたが、ついに!!本屋さんに並ぶ事になりました。

邦題は「奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語 」です。

 そして明日はいよいよ富良野ワールドカップ。日本勢が活躍する事ももちろんですが、クリスが良い滑走をする事を期待しています。


奇蹟が僕に舞い降りた―肝移植患者からメダリストとなったスノーボーダーの物語

2007年2月14日 (水)

スノーボードと現代の奇蹟6

 今日はバレンタインデー。日本と米国でバレンタインデーの習慣が異なる事を御存じの方も多いと思います。

 そして、もう一つ、今日はNational Donor Day(ナショナル ドナー デイ:全国ドナーの日)と言う日でもあります。この日のイベントとして、献血や臓器移植のドナー登録へ協力を呼びかけたり、募金キャンペーンが各地で行われたりします。(クリスの本を読んで知った事ですが、、、。)

 そんな「ドナーの日」、と言われても一般に、健康に生活している人たちにとっては、臓器移植は別世界の出来事のように聞こえるのではないでしょうか。ただ、脳死臓器移植のドナーとして最適なのは、生前に病院なんて近寄った事もない、病気なんて全く縁のなかった人たちである事は明白です。その人たちとその御家族にメッセージが届かなければ、ドナーの数は増えないと思います。

 まずは、臓器提供意思表示カードを持つ人の数を増やす事から始める事が必要だと思います。

 臓器提供をするにしろ、しないにしろ、意志を表らかにする事が大切です。臓器提供は完全なる自由意志によって決定されなくてはいけませんから、その意味で、臓器提供を拒否すると言う意思表示をしたカードを携帯している人が一定数いる事はとても大切だと思います。また、そう言った話が日常生活の中で家族と語られる機会が増える事が望まれます。なんといっても最終的に臓器提供に同意するのは遺された御家族ですから。

 その意味で、クリスの自伝 "To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder " は一つの役割を果たす事が出来るのではないかと感じました。

2007年2月13日 (火)

スノーボードと現代の奇蹟5

 以前にも書いた通り、日本で肝移植と言えば生体肝移植が普通です。現在、国内の脳死肝移植は数にして生体肝移植の100分の1程にしかなりません。

 僕が日本に帰国してから1年あまりの間に劇症肝炎に罹患し、肝移植により命を救われた若い女性がいました。命に関わる病気に突然罹患し、ある日突然降ってわいたような事態に、御家族の精神的負担はどれほどのものがあるでしょう。そして彼女の病態が肝移植適応基準を満たした時、臓器移植は生体肝移植しか選択肢がほぼないと言ってよい現状で、ご両親を初め、御家族には臓器提供申し出なくてはいけないという精神的圧力はないのでしょうか。

 また、母が肝不全となり、娘が母を救うため、自分の肝臓を使って肝移植をして欲しいと希望しても、母は娘の体を傷つけてまで長生きしたくないとその申し出を受け入れないという事例もありました。

 僕自身が臓器移植に直接関わる事は殆どありませんが、医師として臓器移植が通常の医療として根付くには時間が必要だと感じると同時に、根本的にはドナーの不足という問題が横たわっているのだと感じます。

 

 そんな中、先日朝日新聞に脳死患者さんからの臓器提供が増加傾向にあるという記事が出ていました。また、自分が脳死となった場合に、臓器提供に肯定的な意見を持つ若者の数が増えているという報道もあります。これらは本当に希望が持てる動きだと思います。

2007年2月12日 (月)

スノーボードと現代の奇蹟4

 彼の言葉そのままに、彼の自伝「To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder 」では、スノーボーディングについての話が半分以上を占めています。

 スノーボーディングの生い立ちや歴史、道具の改善などだけでなく、スノーボーダーがいかにスキー場で迫害されてきたか、そしてスノーボーダーに対するイメージはいかにして形成されてきたか。さらにそれを払拭する為にクリスがどれ程努力をしなくてはならなかったのか、等などなど。このあたりは物語としても面白いと思いますし、スノーボーディングの歴史としても興味深いと思います。

 僕自身、昔はスノーボーダーをスキー場の厄介者のような目で見ていた事がある事を白状しなくてはならないでしょう。当時、スノーボーダーをウィンタースポーツの仲間と見なしていなかった事だけは確かです。けれども読んで行くうちにそれが間違いであったと感じるようになり、ちょっとやってみたいかな、、、、と感じたりもしました。(言ってしまった、、、)

 また、彼らの敬虔なクリスチャンぶりは、「アメリカ精神の源―「神のもとにあるこの国」 」で読んだ通りの風景を想像させてくれます。僕はニューヨークであまり知り合う事はありませんでしたが、彼のように信心深い善良なアメリカ人は沢山いるのだろうなぁ、と思います。そう言った善良なアメリカ人の日常生活、子育てなどの様子もかいま見る事が出来そのあたりも興味深く感じます。例えば、成長期の子どもたちのために必要な食料品の例として挙がっているのは、タルトやシリアル、アイスクリームだったりします。正しいかどうかはさておき、考え方の違い、感覚の違いとして、大変興味深いところが随所に出てきました。

 一方、郊外に住み、子供を育てている白人女性で、ミニバンに子供を乗せてお稽古ごとの送り迎えに忙しい母親を意味する「サッカーママ」などという表現が出てきて、どこの国も同じなのかなぁ、とこれまた興味深く感じました。

2007年2月10日 (土)

スノーボードと現代の奇蹟3

 2005年6月、僕の日本帰国を前に、クリスはニューヨークに遊びにきました。彼と心地よい日光のもと、マンハッタンのブライアントパークでコーヒーを飲みながら話をしました。彼は気さくで陽気な好青年でした。以下はこの本についての彼のコメントです。

 「とかく臓器移植についてのメッセージは重くなりがちだ。ドナーとなる人たちは臓器移植なんて夢にも思わない健康な人たちで、彼らにメッセージを届けようと思ったら、重すぎてはダメなんだ。だから僕の本ではスノーボードの要素はとても大切なんだ。皆に僕の本を読んで楽しんでもらいたい。自分もそうだし、そうだったけれど、みんなどんな時でも人生を楽しみたいと思うんだ。けれども、本当の満足は人助けをしたときに得られるものなんだよね。」

 残念ながら彼はトリノオリンピックには出場できませんでしたが、現在も抗拒絶薬を内服しつつ、プロスノーボーダーとして元気に世界を転戦しています。

 2月16日に富良野で行われるワールドカップ

( http://www.snowboard-worldcup.net/gaiyo/index.html ) に出場するため、日本にもやってきます。

 また2005年には、移植医療の普及のため、自らの名を冠したクリスクルーグ財団を設立しました。プライベートの面では、自伝 " To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder " に登場するミッシー・エイプリルさんと2005年の9月にめでたく結婚され、充実した日々を送っているようです。

 彼からのe-mailはいつも力にあふれています。彼がこの様な生活が送れる事は、移植医療が存在しなかった時代と比べれば、まさに奇蹟と言えると思います。ですが、今後はこの様な事が普通の事になっていく事を、僕は望みます。

2007年2月 9日 (金)

スノーボードと現代の奇蹟2

 前日より続きます。

 記事に彼の真摯な気持ちが表れていたからでしょうか、この本のことが僕の頭から離れませんでした。数ヶ月後、インターネットで検索して、この本を探し出し購入しました。

 読んでみると、本は非常に良質なヒューマニズムにあふれた本でした。この本は医療関係者に向けて書かれたものではありません。僕の理解では、スノーボーダーをはじめとする普通の人々へ向けて、「人生を楽しもう」というメッセージを伝えるものだと思います。

 そしてその「人生を楽しむ事」を真剣に考えたとき、それは身勝手に自分だけが楽しむ事ではない事が明らかになるのだと思いました。その一つの表れが臓器移植推進のメッセージなのだと思います。

 2001年9月11日、この本のメッセージとは対局にある事件がおこりました。

 このテロに対して善良なアメリカ市民がどのように感じていたのかを本書から伺い知る事が出来ます。2002年ソルトレーク・オリンピックの開会式で、世界貿易センタービルの残骸から出てきた星条旗が会場に持ち込まれ、掲揚された時の記述からは、彼がいかに平和を望んでいるのかが伝わってきます。彼にとって、それは米国の象徴ではなく、愛、平和、共存の象徴であったのでしょう。

 僕の知る多くのアメリカ人達はクルーグ氏のような、善良な人たちです。彼らのアメリカらしさから、積極性、誠実さ、かくさない事、あきらめない事など、僕は多くの事を学びました。

 良い本なので、日本語でもう一度読んでから、友人にも紹介したいと思ったのですが、いくら調べても日本語版が見つかりません。代わりに、クルーグ氏のホームページを見つけました。そこに「日本語に翻訳されてないの?」とメールをしたのが彼と知り合うきっかけとなりました。

2007年2月 8日 (木)

スノーボードと現代の奇蹟1

 2005年1月、それはニューヨークの寒い冬の朝でした。長男を幼稚園へ送りとどけ、いつものように僕は街角においてあるフリーペーパーを手にセントラルパークを歩いて横断して職場へ向かいました。

 このフリーペーパーに 自身の自伝、"To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder " を出版したクリス・クルーグ氏のインタビュー記事が掲載されていました。彼は臓器移植を受けた最初のオリンピックメダリストです。ソルトレイクオリンピックの18ヶ月前、彼は原発性硬化性胆管炎という病気のため、肝移植をうけました。

 正確な記事の内容までは記憶していませんが、臓器移植前に彼が感じていた事、臓器移植後のQOL(Quality of Life)の改善、オリンピックへの思い、そしてドナーとその御家族への感謝と臓器移植推進のメッセージが書かれていたように思います。この季節、時にマイナス20度近くなるニューヨークの早朝は寒さをこえて痛さとして感じられます。新聞を持つ手が痛くなって、途中で記事を読むのをやめてしまう事が多いのですが、その時は例外でした。肝臓に興味を持って診療に従事させて頂いていた医師として恥ずかしながら、肝移植後の患者さんのQOLの改善がこれ程までに劇的であるとは想像していなかったからです。

 僕は2001年12月から2005年8月までのニューヨークのマウントサイナイ医科大学の肝臓病研究室に留学していました。医師としてではなく研究者としてでしたが、自分としてはここで研鑽を積み重ね、肝臓内科医として将来の肝臓病学、肝疾患診療の進歩に少しでも寄与できればと考えての留学でした。

 マウントサイナイ医科大学は活発に肝移植医療を押し進めている施設の一つで、移植外科の医師達が肝臓病研究室のミーティングに参加する事も度々ありましたが、基礎研究をしている実験室との交流はあまりありませんでした。このため、実際に移植を受けた患者さんとお会いする事はありませんでした。日本にいたときも、臓器移植意思表示カードを持ってはいましたが、医師として移植医療が身近にあったかと言えば、河向こう事の様に感じていたと言わざるを得ません。ですから、クルーグ氏のような人がいた事は、医師として自分はどうだったのだろう、患者さんの治療法について真剣に考えていたのだろうか、と考え込んでしまう程、僕にとって衝撃的でした。


 

To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder Book To The Edge And Back: The Story from Organ Transplant Survivor to Olympic Snowboarder

著者:Chris Klug,Steve Jackson
販売元:Carroll & Graf Pub
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2007年2月 3日 (土)

Heart to Heartと大萩康司さんとチャリティコンサート、酒井美紀さんの朗読は良かった

 以前( http://nobu1020.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/heart_to_heart__a79b.html )に紹介した、Heart to Heart主催のチャリティコンサート「ギターリサイタル・二月の暖」に行ってきました。出演は大萩康司さん( http://www.jvcmusic.co.jp/ohagi/ )という若手クラシックギタリストで、会場は恵比寿SPAZIO2というホールでした。このコンサートは、現在、ニューヨークで心移植を待っている阿波宏典くん( http://www.hirokunganbare.com/ )をサポートする目的で開かれたものです。

 SPAZIO2は満席になって170席ほどという小さなホールでしたが、演奏家の息吹が肌で感じられるような一体感がありとても良い会場でした。そのためか、大萩さんも演奏会の終盤では大分のってきて、3曲もアンコールを演奏してくれました。舞台裏では時間が足りなくなる、と大騒ぎでしたが。

 僕はスピーチの関係で、大萩さんの演奏を残念ながら第一部しか聞く事が出来ませんでした。彼の演奏の感想は、音に透明感と力強い張りが同時に存在していて、とても若々しく感じました。けれどもそれは荒さとして感じられるものではなく、緻密に積み上げられた物の上に立つ力強さであったように思います。彼の人柄からくるものかもしれません。スピーチのためとはいえ、演奏を半分しか聞けなかった事はとても残念に思いました。

 チャリティコンサートらしい演奏以外のプログラムは、3つ程ありました。最初は、Heart to Heartの代表、篠原みちるさんによるHeart to Heartの活動の紹介。次に休憩の後、僕の肝移植と僕が翻訳した本についてのスピーチ(勉強した内容の3分の1もしゃべれませんでした。)と、Heart to Heartのサポートを受けてニューヨークで心移植を受けた患者さんからの手紙の朗読がありました。特に女優の酒井美紀さんによってなされた手紙の朗読は思わず涙が出てしまいそうでした。

 これらによって、このチャリティコンサートはメッセージ性の強いものになったような気がします。

 演奏会後のレセプションでは、僕たちとちょうど同じ頃ニューヨーク大学へ留学されていた方が話しにきてくださって、やっぱり世の中狭いものだなぁ、と思いました。

2007年1月23日 (火)

ドナーカードは臓器移植意思表示カード

時事通信社の記事に下記のニュースが出ていました。

2007/01/20-17:15 臓器提供したい、最高の4割=内閣府調査

 内閣府が20日発表した「臓器移植に関する世論調査」によると、脳死と判定された場合に自身の心臓や肝臓などの臓器を「提供したい」と考える人が、1998年の調査開始以来、最高の41.6%(前回比6.2ポイント増)に達した。一方で、提供の意思を示すドナーカードを持っていると答えた人は7.5%(同3.0ポイント減)にとどまっており、制度が十分に周知されていない実態が浮き彫りになった。
 調査は2年ごとに実施しており、今回は昨年11月9日から19日にかけ、3000人の成人男女を対象に実施。有効回答率は57.6%だった。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2007012000263

 40%以上の人が有効回答をしていない中で、今までの調査と比較をしたと言っても、それだけで統計的に有為な差があるのかどうかわかりませんが、この様な報道がなされる事は良い事だと思います。

 ただ、一番の問題点は「提供の意思を示すドナーカード」」と報道されている点の様な気がします。「ドナーカード」は正確な表現ではないと思います。「臓器提供意思表示カード」という名前のはずです。そして、そこには、ちゃんと「私は臓器を提供しません」という項目もあるのです。臓器を提供するかしないか、するとすればどの臓器か、の意志を表示するものですから、全ての人が持っていて良いカードです。

 僕が想像するに現在、「臓器提供意志表示カード」を持っている人の殆どが臓器提供に合意している人たちではないかと思います。

 ここに認識の違いと、「臓器提供意思表示カード」が広まらない理由がある様な気がします。本来であれば、40%の人が臓器提供に賛成である時、カード保持者は60%とか70%になって良いのだと思います。

 まずは、「臓器提供意思表示カード」を皆が持つようにして、賛成であれ、反対であれ、意志をかき込む事から、この特殊な医療への意識が高まって行くのではないでしょうか。

 僕は個人的には手っ取り早い方法として、まず、運転免許証の裏に全員がサインをするようにして、免許交付の時とかに授業で話をしていただく(後日、記入内容を変更する事はいつでも可能であるのは当然の事です)のも良いのではないかと思います。

2007年1月 9日 (火)

Heart to Heart と肝移植

 Heart to Heart( http://www.hearttoheartnyc.com/  )は、昨年、仕事の帰りにひょんな事から知り合った方に、ご紹介いただいた団体の名前です。

 『ライフスタイルにチャリティを息づかせよう』をテーマに活動しているボランティア団体で、主な活動は1)ニューヨークで心臓移植を受ける患者さんとそのご家族のサポート、 2)海外での移植にまつわる経費のためのファンドレイジング活動、の二つだそうです。

 チャリティを肩肘張らずに、日常生活の中で根付かせよう、という気持ちに共感しました。

 2月3日には恵比寿SPAZIO2で大萩康司さん( http://www.jvcmusic.co.jp/ohagi/  )のチャリティコンサートが開かれます。僕もこのコンサートにいく予定ですが、休憩の前か後に、現在の日本の肝移植医療について話をさせていただく事になりそうですので、今日はちょっとその予習。

 日本肝移植研究会の2005年肝移植症例登録報告によれば、生体肝移植は年間500例以上が施行されています。脳死肝移植に関しては、1997年に臓器移植法案が可決されて以降、施行された脳死肝移植はたったの約50例、2006年一年に限ると6例しか行われていません。一方で2007年1月現在、脳死肝移植を待つ患者さんは140人が登録されています。(臓器移植ネットワーック・ホームページ( http://www.jotnw.or.jp/  )より)日本では肝移植の適応がある患者さんの数は年間約2200人(市田文弘・谷川久一編「肝移植適応基準」1991より)と推定されています。現在、適応基準は拡大される傾向にあり、肝移植の適応があると判断される患者さんの数はもっと多いと考えられます。これらの数字でも明らかな通り、日本国内で肝移植により命を救われる患者さんは、肝移植を必要とする患者さんよりずっと少ないのです。

 最近、海外で臓器移植を受ける患者さんが増えてきているという事は、時々マスコミなどで報道されていますが、その通りだと思います。肝移植の例でも明らかな通り、国内での移植医療の広まりと、患者さんの切迫した状況には大きな隔たりがあると言わざるとえないのだと思います。また、現在の臓器移植法案では、小児の脳死ドナーからの臓器移植は不可能であるため、小さな子供が心臓移植を必要とする場合は、国内での治療は不可能なのですね。この点も含め、臓器移植法を改正する法案が提出されています。詳しくは衆議院議員、河野太郎氏のホームページ( http://www.taro.org/activities/opinion/organ.html  )などをご覧ください。

 外国に行って臓器移植を受けるという事は、当然、ドナーとなる方は外国人な訳で、そう言った事を含めて様々な意見があるとは思いますが、現状を改善するために一歩を踏み出した彼らを応援したいと思います。

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